入るときも出るときも、いっぺんに事が起こる
末永くと思った施設の撤退は、有料老人ホームに限ったことではありません。
これは私の話です。私は管理会社をはじめてからも、相変わらず大家業は大家業として続けているのですが、これは、その事業のなかで起きたことです。
所有する物件のなかに、今から二〇年ほど前、父が経営していたころに建てた、ある会社の社員寮があります。だれでも耳にしたことのある企業です。その会社が社員寮として借り上げることを前提に、その旨契約書を交わして建てた施設です。バブルのころらしくデザインもこり、設備もまた立派なものです。各フロアには、ゆったりとしたロビーも設置されています。
社員寮にはぜいたくすぎるという印象なのですが、建てた当時はそういう時代でした。規模も小さくない、外見は比較的高級なマンションのような建物です。
ずっと使い続けてくれるものと思っていたのですが、最近解約されてしまいました。解約できない期限などとっくに過ぎていますから、どうしようもありません。
有料老人ホーム同様、社員寮も、入るときも出るときも、いっぺんにやってきて、いっぺんにいなくなります。出ていけばゼロなのです。高齢の父は、それを聞いて倒れてしまうほどの衝撃でした。
共用設備の多い社員寮をシェアハウスに転用
しかし、頭を抱えてばかりもいられません。さて、次はどうするかを考えないと、税金の支払いもあればローンの残金もあります。
幸い駅から比較的近いところに立地していますから、いっそのことマンションに建て替えてしまえばよさそうなものですが、そんな資金がどこにあるのか。
リニューアルして集合住宅として使うという方法も考えましたが、ぜいたくなつくりとは言え、社員寮です。各室には風呂はもちろん、トイレも調理場もありません。そうした施設はすべて共用なのです。
ちなみに一階のロビーには厨房が設置されており、集会室と食堂を兼ねています。これでは賄いつきの下宿には使えても、集合住宅には向きません。あくまでも社員寮の設備なのです。
これを何に使えるか。ずいぶん頭をひねって考え出したのは、シェアハウスへの転用という方法でした。
これを書いている現在、そのために施設の外装からリニューアルに着手しています。結果はまだわかりませんが、遊ばせておくわけにはいきません。設備の特徴を生かしたうえで、現在の時点で、もっとも時代の要求に合ったものに転用していくほかありません。