今回は、失敗事例を通して、賃貸経営における「自らの意思決定」の重要性を見ていきます。※本連載は、株式会社K'sコーポレーション代表取締役の樋爪克好氏、さいたま新都心税理士法人代表社員で、公認会計士/税理士の河合明弘氏、弁護士の武藤洋善氏の共同著書、『大家さんのための空き部屋対策はこれで万全!!』(三和書籍)から一部を抜粋し、大家業を営むなかで向き合わねばならない様々な問題と、その解決策を紹介します。

営業マンに集合住宅の建築を勧められ、同意したが・・・

ある知人の話です。知人の住むあたりは、長らく区画整理が進められていました。そして、ちょうど完成する前後になると、地権者のところにはハウスメーカーなどからの営業がさかんに足を運ぶようになりました。

 

区画整理以前は、自分の家を建てるならともかく、宅地としての商品価値はないところでしたから、少々うるさがりながらも、みな、まんざらでもないようすです。これも、区画整理組合をつくって、所有地の一部を出し合って道路をつけ、電気や水道などのインフラを整備したたまものでしょう。

 

営業マンがすすめてきたのは、集合住宅の建設です。

 

「サブリース契約ですから、みなさまがご自分で借り手の方を集める必要はありません。空き部屋の分もお支払いしますから安心です」

 

建物はメーカーにおまかせ、銀行の融資もつくなど、いたれりつくせりです。多くの人が同意し、知人も乗りました。

 

最初は順調でした。でも、数年経つうちに借り手はだんだん減っていきました。建物の真新しさも、もっと新しい建物があちらこちらに建つころにはだんだん薄れていきました。

 

そして五年後の契約更新の日がやってきたのです。新たに提示された賃貸料金は、びっくりするほど安いものでした。おどろきはしたものの、断ったところで自分で経営に乗り出すわけにもいきません。なにしろ今まで全部おまかせでやってきたのですから。それに、入居者が減っていることも知っており、無理もないという気持ちもあります。

 

一回目の更新からは、次の更新までの期間はうんと短くなりました。そのたびに家賃は見直され、だんだん利益どころではなくなってきました。銀行融資の残高は、まだまだたくさん残っています。

 

あまり考えたくない雲行きになってきましたが、自分からはどうすることもできません。ただ事態の推移を見守るだけという日々が続いています。

事業を起こすときには、自分のプランを明確にしておく

この知人の土地は、県下でも都内から決して近いとは言えないところにあります。駅からも近くありません。長らく市街化調整区域だったのもそのせいでしょう。区画整理と同時にその指定が解除され、みなが高揚感にひたっているさなかに営業マンが訪ね歩いたのです。我先に手を挙げたのもうなずける話です。

 

結果はごらんのとおりでしたが、はたしてこれは営業マンが悪いのでしょうか。だまして歩いたことになるのでしょうか。

 

そうではないと思います。彼らは建てるのが商売、契約するのが商売です。融資した銀行も貸すのが商売。返してもらわないと困るでしょうが、そこは抵当権が設定されています。

 

結果的に事業がうまくいかなかったというだけで、悪い人はひとりもいません。悪人さがしより、うまくいかなかった原因を探るほうが重要でしょう。

 

見通しの甘さがもたらした結果ということになるでしょうが、その甘いプランに同意したのは知人本人ですから、その点、だれを責めることもできません。

 

事業を起こすときには、つねに自分のプラン、自分の目標、自分の目的がないと、進むべき方向を見定めることはできません。それがないままに、他人の示したプランに乗ったのですから。もしこれから失うものがあるとすれば、それは夢を見た代金だったということになるでしょう。

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