「まだ待つべき」と強気の仲介会社…募る不信感と温度差
Aさんは売却を依頼していた仲介会社に売却価格の引下げを相談した。
しかし担当者は、「この価格でも買い手は現れます」「いま値下げする必要はありません」と方針を変えようとしない。
「仲介会社は少しでも高く売って仲介手数料を増やしたいのではないか」。そんな疑問も抱くように。売主であるAさんにとっては、成約が遅れるほど毎月約43万円もの持ち出しが確定していく。Aさんは、不安を抱えたまま数ヵ月を過ごすことになった。
販売会社や仲介会社に法的責任はあるのか?
精神的に追い詰められたAさんは、弁護士事務所へ相談に訪れた。
「購入時に聞いていた話と違うように思うのですが、なにか請求できるのでしょうか」
結論から述べると、不動産価格は景気や金利、周辺開発、需給などさまざまな要因によって変動するため、「値上がりすると思っていたのに値上がりしなかった」という結果だけで、販売会社や仲介会社が法的責任を負うわけではない。
一方で、価格上昇を確実であるかのように断定して勧誘していた場合や、大型テナントの出店計画などについて事実と異なる説明をしていた場合には、その説明内容によっては説明義務違反などが問題となる可能性もある。
また、仲介会社についても、高値で売却することだけが依頼者の利益とは限らない。市場動向や競合物件を踏まえ、適切な価格設定や販売戦略を提案していたかどうかは、媒介契約の内容や具体的な経緯に応じて個別に判断される。
重要なのは、「売れなかった」という結果ではなく、「どのような説明を受け、どのような判断材料をもとに購入を決断したのか」という点である。
仲介会社の変更で切り拓いた「現実的な出口」
弁護士事務所での法的な見通しなどのアドバイスをもとに、Aさんは販売会社へ仲介会社への責任追及ではなく売却戦略そのものを見直す方向に舵を切った。
Aさんは仲介会社を変更し、新たな仲介会社のもとで市場価格や競合物件を踏まえた価格設定と販売活動を進めることにした。その結果、当初想定していたほどの利益ではなかったものの、最終的には利益を確保したまま売却することができた。
Aさんは振り返る。
「結果的には利益が出ました。でも、あの数ヵ月は本当に心臓に悪かったですね。完成すれば必ず値上がりすると思い込んでいた自分の考えが甘かったと痛感しました」
新築マンション投資で重要なのは「買うこと」ではなく「出口戦略」
近年、新築マンション価格の上昇を背景に、完成後の転売益を期待する投資は珍しくない。しかし、不動産市場は常に変動しており、競合物件の増加や再開発計画の変更、金利動向などによって売却環境は短期間で大きく変化する。さらに、売却できないあいだは、ローン返済や管理費、修繕積立金、固定資産税などで毎月何十万円もの支出が発生することもある。
新築マンション投資では、「いくらで買うか」だけでなく、
・想定どおり売れなかった場合でも保有を続けられる資金計画になっているか
・売却価格や時期を柔軟に見直せるか
・仲介会社の販売方針が自らの利益と一致しているか
といった出口戦略まで見据えて投資判断を行うことが重要である。
不動産投資のリスクは、購入時だけにあるわけではない。むしろ、「どう売るか」という出口の局面で初めて顕在化するリスクも少なくないのだ。だからこそ、資産価値の上昇だけを前提にするのではなく、想定どおりに売却できなかった場合の備えまで含めて検討することが、長期的な資産形成には欠かせない視点といえるだろう。
松井 竜介
陽なた法律事務所 代表弁護士
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