「月5万円くらい稼げないか」夫が突然切り出した話
「この歳で、私に働けっていうの?」
そう声を荒らげたのは、64歳の由美子さん(仮名)です。きっかけは、夕食後に夫から告げられたひと言でした。
夫の正夫さん(66歳・仮名)は、長年勤めた会社を65歳で退職。現在は月約17万円の公的年金を受け取っています。
由美子さんは結婚後、子育てをしながら短時間のパートを続けていましたが、34歳のときに退職。それ以来、専業主婦として家庭を支えてきました。
2人の子どもは独立し、現在は夫婦だけの生活です。
住宅ローンは完済しているものの、夫婦の預貯金は約900万円。正夫さんの退職金の一部も含まれています。
毎月の生活費は約23万円で、年金収入との差額は約6万円。税金や社会保険料が年金から差し引かれる分もあり、実際の取り崩し額はもう少し多くなります。
正夫さんは退職後、通帳の残高が減っていくことを気にしていました。
「このままだと、何年かしたら貯金がずいぶん減るだろう。お前も月5万円くらい稼げないか」
夕食を終え、由美子さんが食器を片づけていたときのことです。
「パートでも何でもいいから、少し働いてくれたら助かるんだけど」
突然の申し出に、由美子さんは手を止めました。
「私、もう64歳よ。30年も外で働いていないのに、簡単に言わないでよ」
正夫さんは「今は年配の人も働いているだろう」と返しましたが、その言葉がさらに由美子さんの気持ちを逆なでします。
「あなたは退職して家にいるのに、どうして私だけ働きに出る話になるの?」
正夫さんは「俺はずっと働いてきたんだから」と口にしかけ、黙り込みました。
由美子さんは、子どもが小さいころから家事をほぼ一人で担ってきました。現在も食事の支度や掃除、洗濯、日用品の買い物は主に由美子さんの役目です。
夫が退職してからは、昼食の準備も増えています。
「働くこと自体が嫌なわけじゃないんです。ただ、今までの家のことは全部そのままで、私に収入まで求めるのかと思って」
その夜、夫婦はそれ以上話しませんでした。
しかし由美子さんはなかなか眠れず、押し入れから古い書類の入った箱を取り出します。中にあったのは、30年前に使った履歴書の控えでした。
「もう一度働くなら、何ができるんだろう」
由美子さんは机に向かい、新しい履歴書に名前と住所を書き始めました。
