「孫に会えるのが一番うれしいはず」続けていた帰省
「孫に会わせるのが親孝行だと思っていました。母も毎年、楽しみにしていると思っていたんです」
そう振り返るのは、会社員の健太さん(仮名・44歳)です。
妻の美咲さん(42歳・仮名)と、中学1年生の長女、小学4年生の長男、6歳の次女の5人家族。年末年始や夏休みには、車で約3時間の場所にある実家へ帰省するのが恒例でした。
実家では、母の芳江さん(70歳・仮名)が一人暮らしをしています。父は6年前に亡くなり、芳江さんは年金を受け取りながら、長年暮らしてきた一戸建てを守ってきました。
健太さん一家の帰省は、毎回2~3泊ほど。母はいつも「みんなでおいで」と声をかけ、孫たちの好物を用意してくれます。
「子どもたちもおばあちゃんの家が大好きで。母もにぎやかなほうがうれしいだろうと思っていました」
しかし、昨年の夏休みは少し様子が違いました。
到着すると、芳江さんは普段通り笑顔で迎えてくれたものの、夕食の準備中に何度も椅子に座って休んでいたのです。
「お母さん、大丈夫?」
健太さんが尋ねると、「ちょっと暑さに疲れただけ」と答えました。
その日の夕食には、唐揚げや煮物、子どもたちの好きな料理が並びました。食後は美咲さんが片づけを手伝いましたが、芳江さんは翌朝の朝食の準備まで始めようとします。
「明日のことは明日でいいよ」と声をかけても、「朝は忙しいからね」と台所に立ち続けていました。
翌日、健太さんは子どもたちを連れて近くの公園へ。帰宅すると、母は洗濯物を干し終え、昼食の支度をしているところでした。
「お昼は外で食べてきてもよかったのに」
そう言われたものの、健太さんは遠慮しているのだと思い、「家で食べるほうが楽だよ」と答えました。
帰省の最終日、健太さんが「次は年末に来るね。今度も3泊くらいかな」と話すと、芳江さんは少し間を置いて口を開きました。
「ねえ、次からは泊まるのを1泊にしてもらえない?」
突然の申し出に、健太さんは驚きます。
「どうしたの? 何か予定でもある?」
すると母は、申し訳なさそうにこう続けたのです。
「みんなが来てくれるのはうれしいの。でも、5人分の支度をするのが、最近ちょっとしんどくなってきたのよ」
