「去年なら歩けたのに」旅先で初めて感じた時間の重み
きっかけは、和子さんが72歳になる少し前のことでした。
近所への買い物の途中、膝に痛みを感じるようになり、整形外科を受診。治療や運動療法を続けることになりました。
日常生活は送れるものの、長時間歩いたり、階段を上り下りしたりすることには負担を感じるようになります。
それでも和子さんは、ある日、隆夫さんにこう切り出しました。
「知床、今年こそ行ってみない? 行けるうちに行きたいの」
隆夫さんも、これ以上先延ばしにするのはよくないと考え、旅行を予約しました。
現地では体力に合わせて予定を組み、景色を楽しめる場所を中心に回ることに。しかし、楽しみにしていた散策路では、和子さんが途中で足を止めました。
「ごめんね。もう少し歩けると思ったんだけど」
休憩を取りながら進んだものの、予定していたコースを最後まで歩くことはできませんでした。
宿に戻った夜、和子さんはぽつりと漏らしたそうです。
「去年だったら、もう少し歩けたかもしれないね」
隆夫さんは、何と答えればよいのか分かりませんでした。
旅行そのものは楽しく、夫婦で美しい景色を見ることもできました。ただ、以前から妻が楽しみにしていた過ごし方を、すべて実現することはできなかったのです。
「25万円を惜しんで何年も先延ばしにしたけれど、結局、そのお金を使っても貯金は十分残っているんですよね」
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』では、今後優先的にお金を使いたいものとして、「自分や配偶者あるいはパートナーの医療・介護の費用」を挙げた人が47.5%、「趣味やレジャー(旅行等)の費用」を挙げた人が32.4%でした。
帰宅後、隆夫さんは妻と家計について話し合いました。
今後の医療費や自宅の修繕費などに備えるお金は確保したうえで、毎年30万~40万円程度を旅行や外食などに使う予算として設けることにしたのです。
「いきなり大きなお金を使うのは怖いです。でも、何に使うための貯金なのか、少し考え直しました」
最近は月に一度、夫婦で気になっていた飲食店を訪れるようになりました。旅行も長距離の移動にこだわらず、無理なく楽しめる場所を探しています。
将来への備えとして貯蓄を維持することは、老後の生活を支える安心材料になります。一方で、年齢や健康状態によって、できることや楽しみ方は少しずつ変わっていきます。必要な生活資金を見積もりながら、今の自分たちが何をしたいのかを話し合うことも、老後の家計を考えるうえで大切な視点になるでしょう。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

