「あと10年、ここで暮らせる?」夫婦が出した答え
和夫さんは妻に聞きました。
「あと5年、10年たっても、ここで暮らせると思う?」
美代子さんは、すぐには答えませんでした。
庭も気に入っています。近所付き合いもあり、地方での暮らしそのものが嫌になったわけではありません。
それでも、80歳になった自分たちが今と同じように車を運転している姿は想像できませんでした。
「10年前なら、ここでよかったんだと思う。でも、これから先は分からないね」
夫婦は、住み替えを考え始めました。
当初は同じ県内の中心部も候補にしましたが、最終的に選んだのは、以前暮らしていた首都圏の郊外です。都心ではありません。駅から徒歩10分ほどの中古マンションで、スーパー、ドラッグストア、内科が徒歩圏内にあります。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、住まいや地域について重視することとして、「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%で最多。「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」も54.1%に上っています。
夫婦が次の住まいに求めた条件も、まさにそこでした。
地方の家は売却しました。庭の片付けをしていたとき、美代子さんは「ちょっと寂しいね」とつぶやいたそうです。和夫さんも同じ気持ちでした。
「移住に失敗したとは思っていません。7年間、ここに住んだからできたこともたくさんありましたから」
都会へ戻ってからは、車を1台だけ残しています。ただ、日常の買い物に車は必要ありません。和夫さんは歩いてスーパーへ行き、美代子さんは電車で友人に会いに行くようになりました。
便利になった一方、失ったものもあります。窓から見えていた山はなくなり、庭で野菜を育てることもできません。
それでも、和夫さんはこう話します。
「今度は『車がなくても生活できるか』を一番に考えました。昔なら、そんなことは条件にも入れなかったでしょうね」
内閣府の同調査では、現在の地域に安心して住み続けるために必要なものとして、「かかりつけ医等健康面での受け皿」が56.4%、「近所の人との支え合い」が50.2%、「移動手段や商業施設などの生活環境の利便」が46.1%に上っています。
地方と都会のどちらが、高齢期の暮らしに適していると一律に決めることはできません。交通網が整った地方都市もあれば、日常生活に車が欠かせない郊外もあります。
重要なのは、「今、暮らしたい場所」だけで住まいを決めないことです。運転をやめたら買い物はどうするのか、通院には何を使うのか、年齢を重ねても住み続けられるのか。将来の生活を具体的に想像しておくことが、高齢期の住まい選びでは大切になるでしょう。
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

