(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが独立し、夫婦だけの生活になったことをきっかけに、自宅の売却や住み替えを考える人もいます。一方、長年家族で暮らした家について、親と独立した子どもとでは、その後の捉え方が異なることもあります。親が自分たちの暮らしに合わせて住まいを見直そうとしたとき、思わぬところで家族の考えの違いが表面化することもあるようです。

「少しだけ置いてほしい」娘の荷物が届いた日

「この家、ずっと残すんじゃないの?」

 

長女からそう聞かれたとき、72歳の正明さん(仮名)は驚いたといいます。

 

妻の洋子さん(71歳・仮名)との公的年金は、夫婦合わせて月約26万円。2人の子どもはすでに独立し、郊外にある4LDKの戸建てで暮らしていました。

 

家を購入したのは30代のころです。住宅ローンはすでに完済していますが、築30年以上が経ち、あちこちに手入れが必要になっていました。

 

2階には子ども部屋が2つあります。夫婦だけになってからはほとんど使わず、掃除のために入る程度。庭の手入れも以前ほど楽ではありません。

 

「あと何年、この家を管理できるかな」

 

70歳を過ぎたころから、夫婦はそんな話をするようになりました。

 

考えていたのは、自宅を売却して駅に近い2LDK程度のマンションへ移ること。車を手放しても買い物や通院に困らない場所を探し始めていました。

 

そんな矢先、41歳の長女・美咲さん(仮名)から「話がある」と連絡が入ります。夫と離婚することになったというのです。

 

美咲さんは会社員として働いており、中学生の娘が1人います。すぐに生活できなくなるわけではありませんでしたが、現在の賃貸住宅は家賃が高く、離婚後も住み続けるか迷っていました。

 

「次の家が決まるまで、荷物を少し置いてもいい?」

 

両親は了承しました。数日後、段ボール箱が届きます。洋服や本、季節用品など十数箱。空いていた子ども部屋に収まりました。

 

正明さんは、娘が実家へ戻ってくる可能性も考えました。しかし美咲さんは「仕事もあるし、娘の学校もあるから、ここから通うのは難しい」と言います。

 

そのため夫婦は、娘が新しい部屋を決めれば荷物も移すのだろうと思っていました。ところが、自宅の売却について話したとき、美咲さんの表情が変わります。

 

「え、この家売るの?」

 

「そのつもりでマンションを探してるよ」

 

すると、美咲さんはしばらく黙ったあと、こう言いました。

 

「実家なら、何かあったとき何とかなると思ってた」

 

正明さんは返す言葉に困りました。

 

厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯は2,747万4,000世帯で、全世帯の50.6%。そのうち「夫婦のみの世帯」は882万1,000世帯(32.1%)、「単独世帯」は873万世帯(31.8%)でした。高齢期には、子どもと同居せず、夫婦だけ、あるいは一人で暮らす世帯が大きな割合を占めています。

 

正明さん夫婦も、子どもが独立してから10年以上、2人の生活を築いてきました。それでも美咲さんの言葉を聞くと、「自分たちだけの都合で家を売っていいのだろうか」という迷いが生まれたのです。

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