予定をすべて共有しない…夫婦が見つけた距離感
最初に担当したのは、風呂掃除と夕食後の食器洗いでした。
洗濯は真理子さん。ゴミをまとめて出すのは隆之さん。昼食は、それぞれ自分で用意する。
きっちり半分にしたわけではありません。得意なことや、それまでやってきたことを考えながら分けました。
ところが、問題は家事だけではありませんでした。退職から2週間ほど経ったある日、真理子さんが外出しようとすると、隆之さんが尋ねました。
「今日はどこ?」
「友達とランチ」
「何時に帰ってくる?」
悪気はありません。しかし、それが何度か続いたある日、真理子さんは言いました。
「会社に行っていたとき、私が昼間に何をしているか毎日聞かなかったでしょう?」
隆之さんは、そのとき初めて気づいたそうです。自分にとっては何気ない会話でも、妻には「退職した夫に行動を確認されている」ように感じられていました。
「家事を手伝えば、それでいいと思っていたんです。でも問題は、急に2人でいる時間が増えたことだったんですよね」
そこで夫婦は、予定をすべて共有することもやめました。一緒に出かけたい日は相談する。夕食が不要なら伝える。それ以外は、それぞれ好きに過ごす。
隆之さんも週に2日は図書館へ行き、以前から興味のあった歴史講座にも通い始めました。
総務省『労働力調査』を基にした厚生労働省の資料によると、2024年の60~64歳の就業率は74.3%。男性では84.0%、女性でも65.0%でした。さらに、60~64歳の就業者のうち、月末1週間に35時間以上働いた人の割合は59.6%です。
つまり、60代前半の夫婦でも、仕事を続ける人、完全に退職する人、勤務日数を減らす人など生活の形はさまざまです。どちらかの退職を境に、それまでの家庭内の時間配分が大きく変わる家庭もあるでしょう。
半年ほど経ったころ、真理子さんは最初に作った「家事リスト」を処分しました。
「もう見なくても分かるでしょう」
隆之さんは「最初は辞令みたいで嫌だったけどね」と笑います。
現在も、夫婦で一日中一緒に過ごすことは多くありません。それでも夕方になると、「今日は何してた?」とお互いに話すことがあります。
「仕事を辞めたら夫婦でずっと一緒にいるのが理想だと思っていました。でも、別々に過ごす時間があるから、話すこともできるんですよね」
退職によって増えるのは、自由な時間だけではありません。これまで仕事によって自然に分かれていた夫婦の時間が、一気に重なることもあります。
家事をどう分けるかだけでなく、一人で過ごす時間をどう確保するか、互いの予定にどこまで関わるか。定年後の夫婦生活では、「何を一緒にするか」と同じくらい、「何を別々にするか」を話し合うことも大切なのかもしれません。
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