(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になって一人暮らしに不安が出てくると、家族で住み替えを検討することがあります。しかし、安全性や生活支援を考えて選んだ住まいでも、本人がすぐ新しい環境になじめるとは限りません。「入居できれば安心」で終わらないのが、高齢期の住み替えの難しいところです。

毎晩の「帰りたい」…家族の向き合い方

家族にとって困ったのは、和子さんが入居そのものを嫌がって契約したわけではなかったことです。見学にも行き、自分で部屋を選び、家具についても相談しました。

 

それでも、長年暮らした家を離れてみると、和子さんの気持ちは入居前に想像していたほど簡単には切り替わりませんでした。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、60歳以上の現在の住まいは「持家(一戸建て)」が76.2%で最も多く、「持家(分譲マンション等の集合住宅)」は8.3%でした。長年暮らしてきた持ち家を離れることになる人にとっては、住居だけでなく、それまでの日常そのものが大きく変わる場合があります。

 

恵美さんは最初、「せっかく入ったのだから慣れてもらわなければ」と考えていました。しかし、毎晩電話が来ると、自分たちの判断が間違っていたのではないかとも思い始めます。

 

兄にも相談しました。

 

「本人がそこまで嫌なら、家に戻したほうがいいんじゃない?」

 

一方で、以前と同じ一人暮らしへそのまま戻せば、転倒したときなどの心配は残ります。

 

家族だけで結論を出さず、恵美さんは住宅のスタッフにも相談しました。スタッフから聞いたのは、日中の和子さんは食堂でほかの入居者と話すこともあり、食事もほぼ食べているということでした。

 

恵美さんが想像していたように、一日中部屋で落ち込んでいるわけではありません。そこで家族は、すぐ退去するか、そのまま我慢してもらうかの二択にするのをやめました。

 

当面は恵美さんが訪ねる回数を増やし、自宅から愛用していた湯のみや写真、座布団なども持ってきました。毎日電話が来ても、「もう決めたんだから」と話を終わらせず、その日に何をしたのか聞くようにしました。

 

和子さんにも少しずつ変化が現れます。

 

2週間ほどすると、毎晩だった電話が2、3日に1回になりました。1ヵ月が過ぎたころには、恵美さんが「日曜日に行くよ」と言うと、「午前中は体操があるから午後にして」と返ってきました。

 

「それを聞いたとき、初めて少し安心しました」

 

和子さんが「帰りたい」とまったく言わなくなったわけではありません。自宅はすぐに処分せず、今後の生活については本人の様子を見ながら家族で考えることにしています。

 

サ高住は2026年8月末時点で全国8,312件、29万950戸が登録されています。高齢期の住まいの選択肢として広がっていますが、どの住宅でも同じサービスが受けられるわけではありません。

 

設備やサービスを確認することはもちろん、本人がそれまでどのような生活を送り、何を大切にしてきたのかを考えることも重要です。

 

住み替えを本人が了承していても、新しい暮らしに慣れるまでの時間まで予測できるとは限りません。「入居を決めること」をゴールにせず、その後の生活を家族や住宅側と一緒に見ていくことも、高齢期の住み替えでは必要になるでしょう。

 

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