今回は、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特別措置について見ていきましょう。※本特集は、昨年12月8日に発表された与党大綱に基づく「平成29年度税制改正」のポイント解説です。本稿では、上條佳生留税理士に「医療法人」関連の改正ポイントを解説していただきます。

「持分なし医療法人」への移行 特例措置の利用は13件

国の姿がどうあるべきか、税制はその骨格作りを担うものです。その税制における平成29年度税制改正が発表になりました。そんな中で、今回は医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特別措置について検討をしたいと思います。

 

平成18年医療法改正(第5次)により「持分あり医療法人」の新設は認められなくなり、旧法の「持分あり医療法人」は「経過措置型医療法人」としての位置付けとされています。

 

その「持分なし医療法人」への移行を支援するために、平成26年度税制改正では、「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置」が創設されました。これは、「持分なし医療法人」への移行計画について、厚生労働大臣の認定を受けた「持分あり医療法人」(認定医療法人)が「持分なし医療法人」へ移行する期間に発生する相続税・贈与税を猶予し、移行後にその猶予税額を免除するというものです。

 

しかしながら、平成26年10月より3年間の期限付きでスタートしたこの制度による認定件数は61件、うち完了件数は13件(平成28年9月末)と、当局の思惑と実際の結果には大きな乖離があることから、実態把握が不十分で明らかに読み違いをしていたと言わざるを得ないのではないでしょうか。

 

この特例措置が、平成29年度税制改正において、その適用期限が3年間延長されます。「持分なし医療法人」への移行計画の認定要件は厳しくなることが予想されますが、現在の医療法人への贈与税課税(相法66④)の非課税基準である相続税法施行令33条3項が規定する要件(役員数、役員の親族要件、医療計画への記載など)は緩和されることになります。

「持分=財産権」を放棄することへの違和感

この制度の詳細は、今後改正医療法の政省令で明らかにされ、通常国会で成立すれば、今年の10月にもスタートする見込みです。持分の評価が高くなり、相続税の負担が重くなると考えられる医療機関にとっては有効な相続対策として、選択肢が増えていくこととなりそうです。

 

しかし、当然のことながら持分なし医療法人へ移行するということは、出資者全員が持分を放棄する、つまり財産権を放棄することには変わりはありません。移行が遅々として進まなかったのは、今日まで蓄積してきたストックである財産権を放棄するということに、単純に違和感を抱いていたからでしょう。

 

前段の話しに戻りますが、そもそも財産権は憲法で保障されているものです。また日本経済は資本主義であり、私有財産制というものこそがその活力の源泉になっています。一定期間のフローである相続税の免除と引き換えに、累積ストックである財産権を放棄するということについて、腰が上がらないのはごく当たり前の感覚でしょう。逆に言えば、経済合理性に欠けているからだと考えられはしないでしょうか。

 

いずれにしても、制度のメリット・デメリットを冷静に見極める必要があります。そのうえで、この制度が自社固有の医業承継問題解決の方法として、是なのか非なのかを選択していく必要があるのではないでしょうか。

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