「隣の芝生」を見て決めるリスク…手放した3つの「最強の武器」
他人の決断を真似ることは、処方箋なしで他人の薬を飲むようなものです。老後資金設計において「普通はこうする」という思い込みは、ときに致命的なリスクを招きます。専門家の目から見れば、中村さんは3つの「最強の武器」を自ら捨てていたことになります。
1.「低金利の住宅ローン」を手放した
過去20年以上、日本は史上空前の低金利時代でした。そして、住宅ローンは個人が受けられる最も有利な融資です。昨今のようなインフレが進む局面では、現金の価値が下がる一方で、実質的な借金の負担も目減りしていきます。つまり、「低金利の借金を抱えたまま、現金をインフレに強く流動性の高い株式や金などの資産で運用する」ことこそが、インフレ時代の正解となり得るのです。
2.「団信(団体信用生命保険)」という権利の放棄
住宅ローンを完済した瞬間、銀行が提供していた強力な保険「団信」は消滅します。もしローンを継続していれば、中村さんの身に万が一のことがあった際、家のローン返済は不要となり、退職金2,100万円がすべて家族の手元に残りました。住宅ローンの完済は、家族を守るための巨大な保障を自ら解約したことを意味します。
3.不動産は「食べられない」という現実
どんなに資産価値がある家でも、スーパーでパンは買えません。老後において最も重要なのは、不動産評価額ではなく「キャッシュフロー(現金が回り続けること)」です。手元から現金が消え、不動産という「動かせない資産」に姿を変えた瞬間、家計の柔軟性は失われます。
資産寿命を延ばすための具体的な選択肢をFPが解説
中村さんがすでに返してしまった1,500万円は戻りませんが、このようなケースでも打てる手は残されています。老後に必要な資金を予備費も含めて想定して、リスクを特定すれば、過度な不安は解消します。
今からできる対策としては、家計の徹底的な見直しと、就労による「年金の繰下げ受給」が考えられます。資産寿命を延ばす努力をしながら、どうしても現金が不足しそうな場合には、自宅を担保に融資を受ける「リバースモーゲージ」や、条件次第ですが自宅を売却して家賃を払いながら住み続ける「リースバック」という選択肢もあります。
「普通はこうする」「みんな返している」という根拠のない同調圧力は、老後の生活を静かに破壊します。中村さんの後悔は、これから定年を迎える世代への、重く、鋭い警告となるはずです。
桐山 昌也
株式会社ライトオブライフ
代表/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
