2025年末に訪れたアメリカで、日本企業の駐在員の人数や採用現場の空気に、以前とは異なる変化を感じた。――そう語るのは、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)の先駆者である東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏。物価高や景気減速への警戒感が広がるなか、アメリカ赴任や雇用にどのような影響が出ているのか。そして、それが日本で働く人にどう関係するのか。現地での見聞などをもとに福留氏が解説します。
駐在員が減少、“転職大国”から“守り”へ――物価高と景気不安の広まるアメリカの変化が「日本にも無関係ではない」理由【キャリアのプロの視点】 (※写真はイメージです/PIXTA)

著しく高いアメリカの物価水準…現地の活気にも影響?

こうした状況を裏付けるように、アメリカでは物価が異常とも言える水準まで上昇しています。スーパーマーケットを見渡した際には、日本と比べて体感で3倍近い価格差を感じました。卵をはじめとする生鮮食品全般が高騰し、食生活への影響も無視できません。

 

私が訪れたシカゴでは、子どもをスクールバスで通学させるだけで、月に日本円で約20万円かかるという話も聞きました。大都市で子ども1人を一定の水準で育てるには、世帯年収20万ドルではやや足りず、できれば30万ドルは欲しいというのが現地の感覚だそうです。1ドル150円で換算すると、4,500万円に相当します。

 

IT企業や半導体大手など、業績が好調な企業の求人を見ても、20代後半で年収15万ドル(日本円で約2,000万円)という条件は珍しくありません。それでも、共働きでなければ家計が厳しいというのが、今のアメリカの現実です。このような物価水準では、日本から駐在員を送り出すことが難しくなるのも無理はありません。

 

また、賃金の上昇が物価高に追いついていないのか、今年のクリスマス商戦は勢いを欠き、消費の冷え込みは住宅から始まり、高級消費財にも広がっているようです。

 

実際、私が平日のシカゴ中心部を歩いた際も、人通りはまばらでした。極寒の気候を差し引いても、以前の活気は感じられません。街を行き来する外国人旅行者もずいぶん減っている印象でした。シカゴから北に向かうとミシガン湖をはじめとする素晴らしい景観の五大湖があり、この一帯は歴史ある地域です。またシカゴにはアメリカで最初に使用された水道設備(シカゴ・ウォーター・タワー)があり、それが遺跡のように保存されて観光地になっています。しかし、最近はそうした所でも人が少なくなっているようです。

 

さらに、近年アメリカでは移民の数が減少し、国外退去となる人も増えているといわれています。その影響もあってか、街中で外国人を見かける機会が減った印象を受けました。国際社会を牽引してきたアメリカが、少しずつ変わり始めているように感じます。

 

高い賃金体系を誇るアメリカであっても、著しく高い物価水準の前では人々の気力が削がれているように見えました。私自身、これまで何度もアメリカを訪れてきましたが、ここ10年で最も活気を感じなかった訪問だったというのが正直な印象でした。