必要最低限の仕事しかしない「静かな退職」。この傾向が若手だけでなく、ベテラン層にまで及んでいる実態が、最新調査で明らかになりました。働く人の約7割が熱意を失いながらも、会社を辞めずに留まるのはなぜか。給与不満だけではない、現場を覆う「冷めた本音」と日本企業の構造的な問題を読み解きます。
「7割がやる気なし」日本企業の絶望的現状…若手もベテランも「静かな退職」を選ぶ深刻な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

上司と部下の間に横たわる「本音の壁」

現場の閉塞感をさらに強めているのが、上司と部下のコミュニケーション不全です。調査では、4割以上の就業者が「上司に本音を話せていない」と回答し、1割以上は「話したくない」と拒絶の姿勢すら示しています。

 

部下が上司に求めていることは何でしょうか。「理想の上司に求めること」としてトップに挙がったのは、「話しかけやすい(16.8%)」でした。特にZ世代とY世代でこの傾向が強く出ています。一方、管理職世代であるX世代は「公平・公正である」ことを重視しており、世代間で求めているリーダー像にズレが生じていることも興味深い点です。

 

かつてのような「背中で語る」カリスマや、強権的なリーダーシップは、今の現場では機能しづらくなっています。部下が求めているのは、まず自分の話を聞いてくれる「話しかけやすさ」という入り口です。しかし、プレイングマネージャーとして自身の業務に忙殺される現代の上司には、部下の何気ないサインを受け止める余裕がないのが現実かもしれません。

 

「静かな退職」は、個人の怠慢というよりも、組織と個人の関係性が機能不全に陥っていることのサインです。企業が取り組むべきは、単なる賃上げや福利厚生の拡充だけではないでしょう。もちろん、「給与が低い」という最大の不満に対処することは前提です。しかしそれ以上に、「ここで頑張ることが、自分にとって意味がある」と感じられるような、納得感のある評価やキャリアパスを提示できるかが問われています。

 

また、現場のマネジメントにおいては、「管理」から「対話」への質的な転換が急務です。「話しかけやすさ」とは、単に愛想を良くすることではなく、部下の心理的な障壁を取り除くスキルのことです。上司自身が余裕を持ち、部下の「静かなるサイン」に気づける環境を作らなければ、心の離職は止まりません。

 

「辞めないから大丈夫」と安堵している経営者や人事担当者がいるとすれば、認識を改める必要があります。彼らは辞めないのではなく、諦めているだけかもしれないのです。

 

[参考資料]

アデコ株式会社『X・Y・Zの3世代・2,050人の就業者を対象にした「静かな退職」と「理想の上司」に関する調査【アデコ株式会社】』