必要最低限の仕事しかしない「静かな退職」。この傾向が若手だけでなく、ベテラン層にまで及んでいる実態が、最新調査で明らかになりました。働く人の約7割が熱意を失いながらも、会社を辞めずに留まるのはなぜか。給与不満だけではない、現場を覆う「冷めた本音」と日本企業の構造的な問題を読み解きます。
「7割がやる気なし」日本企業の絶望的現状…若手もベテランも「静かな退職」を選ぶ深刻な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「7割」が熱意を持たずに働いているという現実

「静かな退職(Quiet Quitting)」。必要最低限の業務はこなすが、それ以上の熱意や意欲は持たない。会議では発言を控え、定時になればPCを閉じる。表立って反抗するわけではないものの、組織への貢献意欲は極めて希薄な状態を指します。一過性の流行語ではなく日本企業に定着しつつあることが、アデコ株式会社が全国の就業者2,050人を対象とした調査から明らかになりました。

 

調査によると、X世代(45〜59歳)、Y世代(29〜44歳)、そしてZ世代(20〜28歳)の全世代において、約7割もの就業者が「静かな退職」状態にあると回答しました。具体的には、「仕事への熱意や意欲はないが、必要最低限の業務はこなしている」という項目に対し、67.7%が「あてはまる」としたのです。

 

特にZ世代における割合は顕著で、71.4%に達しています。10人の新入社員がいれば、そのうち7人はすでに「会社に期待せず、ほどほどにやる」と決めている計算になります。しかし、ここで見落としてはいけないのが、管理職や中堅層を含むX・Y世代でも同様の傾向が見られることです。組織の屋台骨を支えるべきベテラン層までもが、熱意を失っている。これはもはや「最近の若者は」という言葉で片付けられる問題ではありません。

 

なぜ、これほど多くの人が働くことに熱意を持てなくなってしまったのでしょうか。調査で最も多くの人が挙げた理由は「給与・報酬が低い」(35.2%)と、、非常にシンプルかつ切実なものでした。この結果を単なる「金銭への不満」と捉えるのは早計かもしれません。ここには、労働に対する「対価」のバランスが崩れているという、働き手の冷徹な計算が見え隠れします。特にZ世代は「タイムパフォーマンス(タイパ)」や「コストパフォーマンス」を重視する傾向にあると言われます。彼らにとって、上がらない給料のまま、責任や業務量だけが増えることは「コスパが悪い」こと以外の何物でもないのでしょう。

 

また、ここ数年の物価上昇に対し、実質賃金が追いついていないという日本経済のマクロな背景も無視できません。頑張れば報われるという昭和的な成功体験を持たない世代にとって、精神論でモチベーションを維持することは不可能です。「給与が低いなら、それ相応の働き方しかしない」という判断は、ある意味で非常に合理的な防衛策ともいえます。

辞めない理由は「愛着」ではなく「不安」

企業にとってさらに厄介なのが、彼らが「辞めない」という点です。調査によると、「静かな退職」状態にある人のうち、8割以上(80.5%)が現在の勤務先での仕事を続ける考えを示しています。熱意はないのに、なぜ留まるのか。その理由は、会社への愛着や使命感ではありません。「次の仕事を見つけるのが難しそうだから」が30.3%で最多でした。次いで「今の環境を変えるのが面倒だから」といった消極的な理由が並びます。

 

ここには、日本の労働市場特有の「流動性の低さ」が影を落としています。転職が当たり前になったといわれながらも、いざ行動に移すにはリスクや心理的ハードルが高い。結果として、今の会社に不満を持ちながらも、しがみつくことを選ぶ。いわゆる「ぶら下がり社員」の大量発生です。

 

彼らは表面的には真面目に働いています。遅刻もしないし、与えられたタスクはこなすでしょう。しかし、イノベーションを生むためのプラスアルファの努力や、組織の課題解決に向けた自発的な行動は期待できません。組織の新陳代謝が止まり、現状維持バイアスがかかった空気が職場を支配することになります。経営層が「変革」を叫んでも、現場が冷めている原因はこのあたりにあるのではないでしょうか。