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夫婦で美味しいものが食べられるかも…甘い期待が一転
神奈川県内で暮らす鈴木雅人さん(68歳・仮名)は、3年前に会社員生活を終えました。現在の主な収入源は公的年金で、雅人さんの年金が月18万円、妻(65歳)が月7万円。合わせて月25万円(額面)が生活のベースになっています。
「現役時代に比べれば減りましたが、贅沢をしなければ年金だけで十分、そう考えていました」
そんな鈴木さんにとって、確定申告は長年「自分には関係ないもの」でした。現役時代は会社の年末調整で完結しており、自ら税務手続きを行う習慣がなかったからです。退職後も、年金から所得税が源泉徴収されているのを見て、「手続きはこれで終わり」と考えていました。
しかしある年、妻の体調不良による入院が重なり、年間で約15万円の医療費を支払うことになります。
「医療費が10万円を超えたら確定申告で税金が戻ることがあると聞き、初めて申告してみようと思いました」
鈴木さんは医療費控除の申告を行うことにしました。そしてその際、退職金の運用で得ていた約20万円の投資信託の配当についても、「まとめて申告しておこう」と考え、申告書に含めました。
「数千円でも還付されれば、夫婦で美味しいものでも食べに行けると思っていたんです」
申告の結果、所得税は数千円還付されました。しかし翌年、自治体から届いた通知で状況は一変します。住民税や各種保険料の計算が見直され、結果として年間で負担が増えることになりました。理由は、確定申告で投資の利益を所得に含めたことにより、合計所得金額が増えたためです。投資の配当や譲渡益(特定口座・源泉徴収あり)は、確定申告をしない「申告不要制度」を選ぶこともできます。
一方で、確定申告を行うとその利益は所得として扱われ、住民税や国民健康保険料、介護保険料などの算定に影響する場合があります。令和5年分以降は、所得税で申告した内容は原則として住民税にも反映される仕組みとなり、以前のように「所得税だけ申告し、住民税では申告不要」といった使い分けはできなくなりました。
その結果、鈴木さんのケースでは合計所得が増えたことで、
・住民税が増える ・国民健康保険料の算定額が上がる ・介護保険料の区分に影響する
といった形で、トータルの負担に影響が生じました。ただし、これはすべての人に同じ結果が生じるわけではありません。投資の利益を申告したほうが有利になるケース(配当控除の活用、損益通算など)もあり、逆に申告しないほうが負担を抑えられるケースもあります。最適な選択は、収入構成や保険料区分によって異なります。
「還付だけを見て判断してしまいました。所得全体への影響まで考える必要があったんですね」
医療費控除の申告自体は、多くの場合有効な制度です。ただし、同時に投資所得を申告するかどうかは別の判断になります。退職後は、税金だけでなく住民税や社会保険料まで含めた「全体」で考えることが重要です。確定申告は「正直に全部出せばよい」という単純なものではなく、制度の選択によって結果が変わることがあります。