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「金がある」という慢心と、止まらない赤字
「あの時、通帳の数字が減るのを怖がらずに、スパッと現金で払ってしまえばよかったんです。そうすれば、少なくとも毎月、毎月、怯えることはなかったのに」
埼玉県南部のベッドタウン。手入れの行き届いた築45年の木造住宅で暮らす小林正夫さん(76歳・仮名)です。遡ること13年ほど前、小林さんが63歳のとき。当時、60歳定年まで勤めた会社で契約社員として働いていました。60歳で手にした退職金と、老後を見据えた預貯金と合わせて、3,000万円ほどの老後資金があったといいます。
年金は夫婦で月22万円程度になる予定。持ち家でローンは完済していたので、贅沢をしなければ年金だけでも十分暮らしていけるだろうと算段していたといいます。
しかし、63歳のとき、築30年を超える住まいで雨漏りを発見。そこで大掛かりなリフォーム、または建て替えの計画が急浮上したのです。
「フルリフォームなら1,200万円、建て替えなら解体費なども入れて最低でも2,500万円。バリアフリーなども見据えると、3,000万~4,000万円程度になるという見積もりをみて、建て替えは断念しました」
さらに小林さんはこう続けます。
「1,200万円をキャッシュで払うと、手元の資産が1,800万円にガクンと減ってしまう。老後、病気や介護で何があるかわからないから、現金はできるだけ残しておきたい。銀行からも『今は低金利なので、借りなきゃ損ですよ』とお墨付き。だからローンを組むことにしたんです」
こうして、15年返済で住宅ローンの活用を決断しました。
リフォーム費用:1,200万円
支払い方法:頭金200万円+ローン1,000万円(15年返済)
手元に残る資産:2,800万円
「手元に2,800万円もあれば盤石だ」と信じていた小林さん。しかし、この「現金の温存」こそが、小林さんの家計感覚を狂わせ、破綻を招く最大の罠だったのです。
月々の返済額は約6万円。「年金22万円から6万円引いても、残り16万円ある。なんとかなる」という計算でしたが、現実は違いました。手元に「2,800万円」という大金がある安心感から、小林さん夫婦の財布の紐は緩んだままだったのです。
「たまには旅行に行こう」
「孫に入学祝いを弾もう」
資産残高があるゆえに、月々の赤字に対する危機感が麻痺してしまいました。結果、生活費とローン返済を合わせた支出は月32万円を超え、毎月10万円以上の赤字が垂れ流されることになったのです。さらに、70代に入ってからの妻の手術や自身の入院費が重なり、年間200万円近いペースで資産は減少していきました。
「もし現金で払っていれば、手元は1,800万円になり、『もうこれしかない』と必死に節約していたかも。それに、ローンの6万円がなければ、年金内での生活も不可能ではなかった。銀行がお金を貸してくれるというから……選択を間違えた」
小林さんの貯蓄は現在、500万円を切ろうとしています。完済まであと数年。さらにその先のことを考えると、たまらなく不安になるといいます。