(※写真はイメージです/PIXTA)
母が望む通り、静かに送ったが…
都内の中堅メーカーに勤務する加藤和也さん(57歳・仮名)。88歳で亡くなった母・静子さん(仮名)の葬儀を「家族葬」で執り行いました。
加藤さんは役職定年を迎え、月収は42万円ほどに減少しています。住宅ローンや自身の老後資金を考えると、家計に余裕があるとはいえません。静子さんは生前、「友達も少ないし、大仰なことはしないで。お父さんのときみたいに人を呼ぶのは大変だから」と繰り返し口にしていました。
「母の言葉通りにするのが一番だと思いました。正直にいえば、家族葬なら費用を数十万円単位で抑えられるという打算もありました。役職定年で給料も下がっていましたし、背伸びをして立派な葬儀を出す余裕はなかったんです」
葬儀は親族10人ほどで静かに見送りました。費用も予算内に収まり、加藤さんは「母の希望も叶えられたし、経済的にも助かった」と、すべてが円満に終わったと信じて疑いませんでした。しかし、葬儀以降、加藤さんの日常は一変します。どこで聞きつけたのか、母の旧友や遠い親戚、かつての近所の人たちが、次々と加藤さんの自宅を訪ねてくるようになったのです。
「土日のたびに突然インターホンが鳴ったり、家に電話をいただいたり。皆さんは『葬儀が終わったと聞いて、せめてお線香だけでもあげさせてほしい』と、善意で来てくださいます。もちろん無碍にはできません。そのたびに居間に通し、お茶を出し、母の最期の様子を一から説明しなければなりませんでした。これが数ヵ月、毎週のように続いたんです」
さらに加藤さんを悩ませたのは、「香典」の扱いでした。家族葬として香典を辞退する旨を伝えていたはずが、自宅に来る弔問客の多くは「どうしても受け取ってほしい」と現金を置いていきます。そのたびに、加藤さんは個別に「香典返し」を手配し、配送伝票を書く作業に追われることになったのです。
「仕事が休みの日に、見知らぬ方々の対応で一日が終わってしまう。百貨店へ香典返しの品を選びに行く時間も、配送代もバカになりません。結局、葬儀会社にすべて任せられた一般葬のほうが、肉体的にも精神的にも、そしてトータルの出費面でも楽だったのかもしれない――。母が生きてきた88年間の人間関係を甘く見ていた。本当に浅はかでした」