十分な資金があれば老後は安泰だと考える人は多いでしょう。しかし、経済的な不安がないことが、必ずしも心の充足につながるとは限りません。たとえば8,000万円もの資産を持っているという男性。悠々自適な生活を手に入れたはずが、今はアルバイトを始めたといいます。幸福なセカンドライフに必要な視点についてみていきましょう。
「老後資金8,000万円」で安泰のはずが…元大手企業管理職の65歳男性、引退6ヵ月後に「時給1,120円・大学の清掃員」に転身した意外な理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産があっても埋められない「社会的孤立」の恐怖

老後、安心できるだけの資産があれば問題はないように思えますが、実際には経済的な不安が解消された後に、「社会的な役割の喪失」というより深い問題に直面するケースがあります。

 

内閣府『令和4年版高齢社会白書』によると、65歳以上の51.6%が何らかの社会活動をしていると回答しています。

 

また生きがいについて尋ねたところ、1年の間に何かしらの社会活動(仕事やボランティア、趣味の集まりなど)をしている人は「生きがいを感じていない(あまり感じていない、まったく感じていないの合計)」は10.9%だったのに対し、社会活動をしていない人は33.0%。その差は3倍もありました。

 

また、東京都健康長寿医療センター研究所の調査では、他者との交流が少ない「社会的孤立」の状態にある高齢者は、そうでない人に比べて死亡リスクが高まるというデータも示されています。

 

資産は、生活の糧であり、将来への安心材料です。しかし、それだけでは“毎朝起きる理由”にはなりません。現役時代に高い地位や収入を得ていた人ほど、退職後に“何物でもない自分”になったときのギャップに苦しみます。

 

「何のために生きているのかわからない」

 

そんな虚無感に襲われないために必要なのは、通帳の残高を増やすこと以上に、組織の肩書きに頼らない「新しい自分」の役割を、地域や社会の中に見つけておくことなのかもしれません。

 

[参考資料]

内閣府『令和4年版高齢社会白書』

東京都健康長寿医療センター研究所リリース『認知機能低下が死亡リスクをどう高めるかは孤立の種類次第:"独居"と"希薄なつながり"は正反対の作用を持つ』