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「すごい経歴らしい」大きな期待とともに転職してきたエリートだったが…
「最初は私たちも期待していました。なんせ、すごい経歴のエリートが来て、会社を変えてくれるっていう触れ込みでしたから」
創業60年の専門商社で課長を務める田村隆司さん(仮名・48歳)。 田村さんの部署に、ある日突然「経営企画部長」としてパラシュート人事(落下傘人事)でやってきたのが、大手外資系企業出身の大崎さん(仮名・45歳)でした。
年収は推定1,500万円。田村さんたちプロパー社員の倍近い金額です。 しかし、歓迎会での第一声で、現場の空気が凍りついたといいます。
「大崎さんは、ビールを片手にこう言ったんです。『正直、この会社のやり方は10年遅れてますね。でも安心してください。僕にはグローバルでの成功体験がある。僕の言う通りにやれば、数字はついてきますから』と」
「俺ならやれる」「教えてやる」というオーラ全開の大崎さん。 田村さんは隣の同僚と目を合わせ、無言で「これはヤバいのが来たな」と合図を送り合いました。
「エビデンスは?」「それ、個人の感想ですよね?」
翌日から、職場は地獄のような空気に包まれました。 大崎さんは、現場の業務プロセスをまったく理解しないまま、カタカナ用語を乱発してマウントを取り始めたのです。
「会議のたびに『その施策、ROI合ってます?』『エビデンス出してください』などと、横文字の連発です。私たちが『長年の取引先との信頼関係がありまして……』と説明しても、大崎さんは鼻で笑って遮るんです。『信頼? そんな曖昧なものKPIになりませんよ。すべて数値化してください』と」
ある時、部下の女性社員が業務改善の提案をした際も、大崎さんはパソコンの画面から目を離さず、冷たく言い放ちました。
「それ、君の個人の感想だよね? ロジックが破綻してる。やり直し」
女性社員は泣き出してしまいましたが、大崎さんは「なんで泣くの? 非生産的だなあ」と呆れる始末。 この瞬間、現場の全員が心の中で「この人の言うことは、もう聞けない」と見切りをつけたそうです。
それから1ヵ月後。大崎さんは完全に孤立していました。 彼が「全部署横断の改革プロジェクト」を立ち上げようとした時のことです。
「キックオフミーティングの日、会議室には大崎さん1人しかいませんでした。私たち現場の人間は、全員『急なトラブル対応』や『顧客訪問』を理由に欠席したんです」
激怒した大崎さんがチャットで「どうなってるんだ!」と怒鳴り散らしても、返信は全員コピペのように「申し訳ありません。現場が立て込んでおりまして」の一点張り。
決裁を求めても、誰もハンコを押してくれません。役員たちも、現場からの「あいつはダメだ」という猛烈な突き上げを無視できず、「まあ、現場とのコンセンサスが取れてからだね」と逃げるようになりました。
「大崎さんは『俺のロジックは正しいのに、なぜ動かない!』と顔を真っ赤にしていました。しかし、正しいだけじゃ人は動かないんですよ。私たちを『能力の低い駒』扱いした時点で終わりだと思います」