(※写真はイメージです/PIXTA)
混乱の空港で露呈した妻の素顔
都内の中堅企業で総務部長を務めた加藤大輔さん(60歳・仮名)。定年退職時に支給された退職金は2400万円でした。これまでの夫婦の苦労を労い、妻の美智子さん(58歳・仮名)との旅行を計画します。行先を尋ねた際、美智子さんは「フランスに行ってみたい。ずっとフランスの歴史や文化に憧れていた」と希望を口にしました。
学生時代に英語を専攻していたという大輔さん。日常会話程度の英語には自信がありましたが、フランス語で知っているのは挨拶程度でした。一抹の不安を感じながらも「観光地なら英語が通じるだろう」と、妻の希望通りフランス旅行を決定したといいます。
「私はずっと仕事優先でした。すべては妻が家庭を守ってくれたから。そのお礼を込めて、妻の願いを叶えたいという思いがありました」
パリを起点とし、ヴェルサイユ宮殿やモン・サン=ミシェルなど、美智子さんが「絶対行きたい!」と言っていた名所を巡る旅は、想像以上にスムーズに進みました。
「どこも英語が通じて快適でした。覚えたてのフランス語の挨拶を織り交ぜて、現地の人ともコミュニケーションを楽しんでいましたね」
状況が一変したのは、帰国日に利用する予定だったパリのシャルル・ド・ゴール空港での出来事です。現地で大規模なストライキとシステム障害が同時に発生し、全便が欠航となりました。空港内には数千人の乗客が滞留。各航空会社の窓口では様々な言語が飛び交い、抗議や質問が繰り返されるパニック状態に陥りました。
大輔さんは案内窓口で代替便の交渉を試みましたが、現地スタッフとの意思疎通が円滑に進みません。具体的な解決策を得られないまま、時間だけが過ぎていったといいます。そのとき、背後にいた美智子さんが大輔さんの前に立ち、現地スタッフとの交渉を代わりました。
美智子さんが話していたのは、流暢なフランス語でした。欠航に伴う振替便の優先順位や、航空会社が負担すべき宿泊費の規約について具体的な確認作業を進めます。さらに周囲にいた日本人観光客に対しても、得られた情報を共有し、列の誘導まで行ったのです。結果として、加藤さん夫婦は翌日の航空券と当日の宿泊施設を確保することができました。
「フランス語が話せるなんて知らなかった。一体いつから、そんなことができたのか」
大輔さんが確認したところ、下の子が小学校に上がり、子育てに余裕が生まれた20年以上前から、趣味としてフランス語を学び続けていたそうです。美智子さんが口にしていた「フランスへの憧れ」とは、単なる観光への興味だけではありませんでした。
「家にテキストがあるのに気づかなかったなんて、仕事以外に興味がなかった証拠ね」
笑いながらチクリと言われた大輔さん。一方で、家庭内での立場の変化を肌で感じたといいます。