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「じいじ、並びたくない」孫の無邪気な一言に
都内の中堅企業で契約社員として働いていた伊藤正雄さん(65歳・仮名)。60歳で定年退職を迎え、退職金2,000万円と現役時代からの貯蓄1,000万円、合わせて3,000万円の資産を保有していました。現在は完全リタイアし、月約17万円の年金を受給しながら、妻と二人で生活しています。
「現役時代は仕事が中心で、家族との時間は二の次でした。定年後は、その埋め合わせをしたいと考えていたんです」
ちょうどその頃、一人娘の加奈さん(34歳・仮名)に長女が誕生しました。伊藤さんにとっての初孫で、「孫は子より可愛いといいますが、本当ですね」と、思わず目を細めます。そんな初孫も5歳になり、ずっと行きたいと言っていた国内有数のテーマパークに家族旅行に出かけることにしました。家族三世代の旅行費用はすべて伊藤さん持ち。入園チケット代と前泊のホテル代合わせて12万円は、すべて彼が負担しました。しかし、園内で思わぬ事態に直面します。人気アトラクションの待ち時間は150分を超えていたのです。
「孫から『じいじ、並びたくない。どうにかして』とねだられました。優先パスというものがあり価格を確認したのですが、1人あたり2,000円、5人で1万円。しかも有効なのは一つのアトラクションだけです。それが安いのか高いのか判断がつかず、すぐに『よし買おう』とは言えませんでした」
昨今の物価高で、何を買うにも割高に感じられます。年金だけでは生活費が足りず、貯蓄を取り崩す月もあります。こうした背景も、躊躇した理由の一つでした。父親の様子を察した娘が「みんなで一緒だから、並ぶのも楽しいね」とフォローしてくれたものの、結局そのまま2時間以上の行列に並ぶことになりました。孫はぐずり、伊藤さん自身もアトラクションに乗る頃にはぐったりしてしまったといいます。
「夕食時には、みんな疲れ果てて少々険悪な空気になりました。あのとき、なぜ『優先パスを買おう!』と言えなかったのか、悔やまれてなりません」
孫の笑顔のためなら多少の出費もいとわないと考えていたはずが、1万円の追加費用を「痛い」と感じてしまった。疲れ果てて寝入ってしまった孫に向かって、「情けないじいじでごめん」と心の中でつぶやくことしかできなかったと振り返ります。