「もし、宝くじで高額当選したら……」 多くの人が、宝くじを最も劇的な「人生逆転の方法」だと考えるかもしれません。しかし、その突然の当選の先には、想像できないような厳しい現実が待ち構えている場合があります。東京都心に住む元会社員の事例をみていきましょう。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
宝くじなんか当たらなければ…妻にも内緒で「6億円」を手にした年金20万円の66歳元サラリーマン、「大金があるのに」安酒を浴び、一日中パジャマで過ごすつまらん毎日。人生終盤ですべてがイヤになった理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

6億円の行方

「努力しないで得た大金は、嫌な記憶を掘り起こして人生を揺るがす」Sさんはそう実感し、当選金をもうみなくて済むようにしようと考えました。

 

寄付も考えましたが、妻にばれてしまう危険があります。そこでFPに相談して、残っている当選金のすべてを、一時払いの生命保険の掛け金に入れるプランを採用しました。Sさんが亡くなったら、妻と子供2人に生命保険金として保険金が支払われるというものです。突然の大金が家族に残されるので、きっと驚くでしょう。もしかしたら、それがまた子供たちの生活と精神を蝕む原因になるかもしれませんが……。Sさんは自分自身がいまのプレッシャーから耐えることができませんでした。

 

宝くじなんか当たらないほうがよかった…

「お金で幸福は買えないが、不幸を避けることができる」と、かつては信じていました。頑張って働いてお金を稼ごうというモチベーションになる言葉だったのです。しかし決してそれは正しくなかったようです。労働やビジネスという、正しいプロセスで獲得したお金以外は、不幸を呼び寄せてしまうのかもしれません。

 

「お金自体にはなんの意味もないな」いま、Sさんはそう痛感しています。

マネーリテラシーと同時に大切なもの

マネーリテラシーという言葉が広く認知されるようになりました。NISAなどの普及もあり、若い世代ではかつてないほど金融知識が豊富な人が増えているようです。しかし、知識が増えていても肝心な部分が抜け落ちているかもしれません。それは「お金に対する心理的耐性」と「お金に対する社会的文脈の理解」です。

 

Sさんのようにいざ大金が舞い込んだときに強い不安を感じる人や、お金の意味(社会的文脈)を理解していないために人格が激変してしまう人もいます。宝くじだけではなく、高額な保険金を受け取った人も同じような状況に陥ることがあります。夫が亡くなり1億円の死亡保険金を手にした妻が、悲しみと同時に心理的な混乱を抱えてしまい、ひどい方法で浪費してしまうことは珍しくありません。

 

お金に感情を支配されないという心理的耐性を高める訓練ができていないまま富を得ると、SNSでの幼稚な自慢や、他人の見下し、金銭感覚の崩壊、そして価値観や人格を露骨に変化させてしまうという状態になりやすいのです。お金は「自己価値の証明の道具ではなく、価値を交換するための道具」という社会的文脈を理解することが重要でしょう。宝くじの高額当選はこの文脈を崩す典型的な出来事で、富を得た自分に酔いしれてしまうと、精神的健康も価値観もアイデンティティも崩壊へと向かってしまう可能性があるのです。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表