「もし、宝くじで高額当選したら……」 多くの人が、宝くじを最も劇的な「人生逆転の方法」だと考えるかもしれません。しかし、その突然の当選の先には、想像できないような厳しい現実が待ち構えている場合があります。東京都心に住む元会社員の事例をみていきましょう。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
宝くじなんか当たらなければ…妻にも内緒で「6億円」を手にした年金20万円の66歳元サラリーマン、「大金があるのに」安酒を浴び、一日中パジャマで過ごすつまらん毎日。人生終盤ですべてがイヤになった理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

自分だけ、隣に誰もいない

自動車購入の次の考えたのは、都内の超高級ホテルに宿泊すること。Sさんは一度も泊ったことがありません。妻から離れ、月に一度くらいは1人で泊まってリラックスしてみようかと考えました。クラブフロアを定宿にし、クラブラウンジで夜景を見ながらお酒とタパスを楽しむのはどうだろうか……と、ホテルのホームページを眺めながら想像しました。

 

あとは旅行。Sさんは現役時代、全国に何度も出張していましたが、当然、ビジネスホテルに泊まって仕事をしただけです。景勝地を巡ったり、名湯と呼ばれる温泉に入ったりしてみたい。家族で旅行したのは何度かありますが、妻と子供2人のための運転手&荷物運びのようなものでした。もちろん楽しかったのですが、もっと贅沢な旅行をしてみたい。買ったBMWで行くのもいいな……。

 

高級ホテルの宿泊や温泉旅行のたびに、Sさんは妻に嘘をついて出かけるようになりました。「友達と釣りの旅行にいく」「都内でボランティア活動があって、合宿の勉強会がある」など、嘘を並べては家を出て、電車で駐車場に向かい、BMWに乗り込んで遊びに行くのです。ホテルや旅館の予約は、高位のクレジットカードに付帯する予約サービスを使いました。

 

最初はとても楽しく過ごしました。各地の高級温泉旅館に泊まっては観光地を巡る旅行です。旅館では、いままで経験したことのないような丁寧なおもてなしを受けて、文句の付けどころが一切ない素晴らしい体験でした。「お金持ちはいつもこのような待遇をされているのか」と呆れたほどです。日本は貧しくなったというけれど、お金持ちはさらにお金持ちになっているのだと身をもって知りました。一泊50万円の部屋が満室になっているなど、会社員をしていたころにはまったく気付きませんでした。

 

そんな風に毎月のように遊んでいたSさんですが、次第にある思いに囚われるようになります。

 

「こんな素晴らしい温泉、妻も連れてきてあげたいな……」「この夜景をみたら、妻は驚くだろうな……」

 

ホテルや旅館、どこに行ってもカップルで来ている人ばかりです。Sさんのようなリタイア世代の夫婦や、若い世代の夫婦、もしかしたら不倫かもしれない雰囲気を出している中年カップルなどみんな誰かと楽しんでいます。1人で泊まっているのはいつもSさんだけ。「いいお湯だったね」などとお酒を飲んで語り合っている夫婦をみると、罪悪感が積もっていくのがわかりました。

 

せっかくの新車も、隣に誰も乗せることができません。素晴らしい体験をしても、それを共有できる人がいないというのは、静かな苦しみがあります。

 

「ひとりって、意外とつまらねえな……」

 

Sさんは車の中で大きめの独り言を何度もつぶやいてしまいました。妻を裏切って遊んでいても、次第に罪悪感と退屈さに覆いつくされてしまったのです。