港区のタワーマンション――。その甘美な響きに、高揚感を覚える人は多いでしょう。都心の高層階から望むパノラマ、眼下に広がる眩い夜景……そんな非日常空間は、経済的な成功の象徴ともいえます。特に近年、再開発が進む虎ノ門・白金・湾岸エリアを中心に3億円を超える物件も珍しくなくなった都心タワマン。その購入層に多いのが、パワーカップルです。彼らにとってタワマンは、単なる住まいではなく、「資産形成」の重要な一手とも考えられています。現役時代は利便性の高い都心で暮らし、リタイア時には購入価格を上回る値段で売却、豊かな老後資金を得る――。もしこのシナリオが確実に実現するなら、これほど魅力的な投資はないでしょう。しかし現実には、誰もがそう上手くいくわけではないようです。ある夫婦の事例を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が紹介します。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
〈手取り月90万円の30代夫婦〉貯金を全部突っ込んで“1億円超えタワマン”購入。上から下まで見える東京タワーの煌めきに魅せられるも…“回覧板”で知った「ヤバすぎる事実」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

きっかけは「資産性」、決め手は「タワマン眺望」

<事例>

夫Aさん 35歳 外資系金融機関勤務 年収1,200万円

妻Bさん 33歳 公認会計士 年収800万円

 

夫Aさんと妻Bさんは、東京都内で働く会社員です。世帯年収は約2,000万円。20代後半から資産運用を続けていたため、現在の貯蓄は4,000万円ほどあります。

 

2025年に入ってから、夫婦はマンションの購入を考えはじめました。それまで持ち家には興味がなく賃貸派だったのですが、当時知り合ったFPにタワーマンションの資産性を解説されたことで興味を持ちます。そのFPによると、ブランド立地の築浅マンションを購入することで値上がりが期待でき、上手に売却するとライフプランに非常に有利だというのです。

 

「しかし、都心のマンションは軽く1億円を超えているのでは……」と夫Aさんは戸惑いましたが、「AさんとBさんのような成功者しかこの資産形成はできませんよ」とFPにおだてられ、ついその気に。

 

検討したのは港区にある、築浅のタワーマンション。25階の部屋からは、遮るもののない東京タワーと、その先に広がる都心のパノラマが望めます。

 

「これが世間でいうところのタワマン眺望というやつか。夜景はもっとすごそうだな」北海道の釧路市育ちの夫Aさんは、その眺めに圧倒されてしまいました。物件価格は、1億8,000万円。その値段に夫婦は驚きましたが、調べてみるとそれでも安いほうだとわかり、さらに驚きました。

 

貯蓄のほぼ全額である4,000万円を自己資金とし、残る1億4,000万円をペアローン(35年変動金利0.7%・35年返済)で組むことにしました。夫Aさん7,000万円、妻Bさん7,000万円という割合です。月々の返済額は、合計で約37万5,000円。ちなみに、2人の手取りは合計で月約90万円弱です。

 

当初、夫婦は月90万円の手取りがあれば、37万5,000円の返済は余裕だと考えていました。賃貸マンションのときの家賃は30万円ほど。それより毎月7万5,000円上がりますが、家賃は消費に過ぎません。タワーマンションであれば資産となり、老後のライフプランを豊かなものにしてくれるはず……夫婦はそう考えたのです。

 

引っ越しがすべて終わったその夜、2人は荷解きもそこそこに、リビングの窓辺に立ちました。窓からは、ライトアップされた東京タワーが、まるで自分たちを祝福するかのように赤く輝いています。

 

「すごいね……本当に私たちがここに住むんだ」 「ああ。ここからだ。もっと頑張ろう」

 

2人はその眩い光を見つめながら、新たな生活への決意を固くしたのでした。

 

しかしマンション購入から間もなく、FPのアドバイスが机上論に過ぎないことに気づくことになります。