厚生労働省の「2022年国民生活基礎調査」によれば、日本の相対的貧困率は15.4%。この数字は、単に「収入が低いこと」だけを指すのではなく、大きな資産を手にしながらも「維持コスト」によって資産寿命を急激に縮めてしまう人々をも含んでいます。どれほど多額の遺産があっても、住まいや生活水準を一度引き上げ、周囲と比較する生活を始めれば、固定費は際限なく膨らんでいって……。本記事では長岡FP事務所代表の長岡理知氏のもとへ寄せられたMさんとKさんの相談事例から、相続によって大金を得た人々の実情に迫ります。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「住まいはタワマン」カシミアコートにブランドバッグを下げて〈港区役所〉にやってきた、瓜二つな世帯月収50万円・同居の45歳独身双子…優雅な装いの裏で隠しきれない焦燥を漂わせ、「住民税を払えない」とシンクロした理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

か弱い自己評価を揺さぶるSNSの恐怖

私たちは、自分という存在を絶対的な物差しで測ることができません。身長や体重と違い、「自分の価値」を単独で評価することは極めて難しいものです。

 

そのため、多くの人は、周囲と自分を比較しようとします。収入、学歴、持ち物、交友関係、体型、配偶者のスペック。誰かと比べて自分は優れているのか、劣っているのか。そのジャッジに一喜一憂する日々。特に現代ではSNSをみて気分が落ち込む人が増えているようです。たとえばInstagramでは、無数の「より優れた他者」がフィードに並び、私たちのか弱い自己評価を揺さぶってきます。自分が所有していないものを手に入れている他人、自分よりも優れた体型の他人、自分には縁のないきらびやかな生活……。それを眺めては気分が悪くなり、そしていつの間にか自分自身への評価軸が「他人にどう承認されるか」にすり替わってしまいます。

タワマンの住所、ブランドロゴ、そして「住民税未納」

MさんとKさんは東京都心の企業に勤める双子の姉妹です。45歳。どちらも未婚、独身です。ある日の午後、彼女たちは区役所で番号を呼ばれるのを待っていました。

 

揃ってカシミアの光沢が美しいコートをまとい、その手元には少し品がないほど派手なブランドロゴが踊るバッグと、大ぶりのアクセサリーが煌めいています。区役所の空気には不釣り合いなほど武装された外見。しかし、その瓜二つの顔に浮かんでいるのは、隠しようのない焦燥感でした。二人して、貧乏ゆすりが止まらず、爪を噛んでいます。

 

二人は番号を呼ばれると同時に立ち上がり、窓口のカウンターへと小走りに向かいました。そして、一通の封筒をそっと差し出したのです。

 

「住民税が払えません」

 

その言葉を聞いた職員は、端末に表示された二人の住所をみてキーボードを操作する指が止まりました。そこには、港区の一等地にそびえ立つ、タワマンの名が記されていたからです。職員は端末に表示された数字を確認し、淡々と尋ねます。

 

「本年度分は前年所得に基づいて課税されています。昨年はお勤めでしたか?」

 

「……退職しました」

 

「退職後の収入はありますか?」

 

「いまはありません」

 

職員は頷き、マニュアルどおりの説明を続けます。

 

「退職による減免制度がございます。ただし、預貯金や不動産などの資産状況を確認させていただきます。こちら、現在お住まいの物件は持ち家でよろしいですか?」

 

姉妹は一瞬視線を合わせました。

 

「はい」

 

「評価額が一定以上の場合、原則として減免対象外となります。資産の活用をご検討いただく形になります」

 

「……売れということですか?」

 

職員は即座に首を横に振ります。

 

「売却を強制するものではありません。ただ、納税は義務ですので、資産をお持ちの場合は、そちらを原資としてお考えいただくことになります」

 

姉妹は黙ってしまいます。

 

「分割納付でしたら、最長で〇回まで可能です。月々いくらならご負担できますか?」

 

姉妹は答えられませんでした。職員は一瞬だけ二人のバッグとコートに視線を落としましたようにみえましたが、すぐに端末へ戻り「本日のお手続きは以上です」と告げました。

 

姉妹は反論することもなく立ち上がり、また小走りで帰っていきました。