「もし、宝くじで高額当選したら……」 多くの人が、宝くじを最も劇的な「人生逆転の方法」だと考えるかもしれません。しかし、その突然の当選の先には、想像できないような厳しい現実が待ち構えている場合があります。東京都心に住む元会社員の事例をみていきましょう。※相談者の了承を得て、記事化。個人の特定を防ぐため、相談内容は一部脚色しています。
宝くじなんか当たらなければ…妻にも内緒で「6億円」を手にした年金20万円の66歳元サラリーマン、「大金があるのに」安酒を浴び、一日中パジャマで過ごすつまらん毎日。人生終盤ですべてがイヤになった理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

宝くじが掘り起こす、蓋をしていた遠い記憶

当選から半年が経つころ、Sさんは旅行を一切やめてしまいました。使ったのは6億円のうち1,800万円程度。あれほど通った喫茶店にも足が向かなくなりました。BMWもほったらかし。駐車場の中でうっすらと埃を被り、バッテリー上がりが心配なほどです。

 

Sさんの心の中でなにかが重くのしかかるようになりました。毎日毎日、まったく楽しくないのです。口座の中にある当選金はさほど減っていないのに、宝くじが当たったら人生が大逆転するはずだと思い込んでいたのが嘘のようです。むしろ悪い方向へ逆転している気さえします。Sさんは銀行口座の残高をみないようにしました。

 

毎日がつまらない原因はこのお金です。もし、この6億円が自分が努力して稼いだ結果なら、こんな気持ちにはならなかったはず。ビジネスでも、投資でも、心と体に汗をかいて、たくさん勉強をして、苦しい思いをして手に入れたお金なら、きっと誇らしく思うのでしょう。

 

会社員として新卒から定年退職まで頑張って築いたいまの貯蓄は、本当に心から誇れるお金です。そこには会社員としての思い出が詰まっています。5,700万円という誇らしいお金は子供2人にも残してあげたいです。父親と母親が頑張って稼いだお金を、子供のために使うなら幸せを感じます。ところが、宝くじのお金は6億円あっても誇らしくありません。

 

不思議なことに、Sさんは自分が小学生だったころの辛い記憶をよく思い出すようになります。父親が経営していた工場が倒産し、一家で夜逃げ同然で引っ越したこと。両親はお金がなく、ご飯を食べるために母親の実家に転がり込んでいたこと。夜、寝ていると、居間から祖母が父親を叱責する大声が聞こえていたこと。そして父親がある日いなくなったこと。両親が離婚したということを、母親から聞きました。

 

商売が下手だった父親がお金で苦労し続けていたことを思い出すと、ついこう思うのです。

 

「あのころ、この6億円があったら……」

 

父親はその後、知り合いがいない土地に引っ越して、アルバイトを転々とし家賃4万円の古いアパートで暮らしていたようです。体調が悪くなっても病院に行くお金がなかったらしく、気づいたときには末期ガン。アパートの布団の上で孤独死をしました。腐乱し部屋を汚してしまったため、アパートの大家が社会人になっていた息子のSさんにきつく文句をいったことも嫌な思い出です。

 

いままで考えもしなかった観念が、Sさんを毎晩のように苦しませます。父親を苦しませた貧困と、軽薄さしか感じない当選金を天秤に載せて考えているのかもしれません。

 

Sさんは毎晩眠れなくなり、お酒の量が増えてしまいました。飲むのは家にある発泡酒。眠れるのはいつも明け方です。なにもかもが億劫になってしまい、一日中パジャマで過ごすことさえあります。