憧れの都心マンションは、予算的に手が届かない。そこで、「家族のため」「広さのため」と自分に言い聞かせ、郊外の戸建てを選ぶ――。それは、多くの家庭にとって現実的で賢明な代替案でしょう。しかし、その決断が数年後、深刻な後悔に変わるケースも。本記事では、Aさんの事例とともにマイホーム購入時の二大リスクについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
港区タワマンのローン審査に落ちました…妥協で東京郊外・始発駅に「広くて庭付き」「子育て向き」の一軒家を購入した年収1,200万円の30代夫婦、3年後に知った「絶望的誤算」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

家計は余裕だが…少しずつ壊れていく夫婦

まず、夫のAさんに異変が生じます。一番堪えたのは通勤ラッシュでした。勤務先までは乗り換えも必要で約90分かかり、ほとんど座ることができません。

 

当初は「八王子駅は始発だし、座れるだろう」と軽く考えていましたが、現実は甘くありませんでした。7時台ですでに満員。座るためには行列に並んで待たなくてはなりません。都会の人は「そんなの普通だろ」と思うでしょうが、会社近くの社宅住まいだったAさんにとって、長時間の満員電車に慣れておらず、40歳目前でデビューした往復3時間の満員電車は、想像以上に過酷でした。

 

仕事が忙しいときなどは終電ギリギリとなり、次の朝起きるのもやっとの生活です。現在40代となったAさんは、慣れてきたとはいえ疲労が蓄積し、帰宅後はすっかり無口になり、息子と遊ぶ気力も失せていきます。

 

一方、妻のほうも深刻な悩みを抱えていました。近所には同世代の子育て世帯が少なく、気軽に話せる友人や相談相手がみつかりません。夫は仕事で多忙なため、育児はやんちゃな息子を一人で世話する「ワンオペ状態」が続きました。妻は次第に孤独を深めていき、気晴らしのショッピングも、都心の華やかさと比べてしまい物足りなさを感じるばかりでした。

 

自然が多くていいところなのに、2人の心には不満ばかりが募るように。

 

「タワマンを買えていたら、もっと楽しくて華やかな生活だったかも……」

 

さらに、子どもの教育にも不満や不安を零すように。都心に比べると保育園の選択肢は少なく、習い事も都心ほど充実しておらず、通わせるためにも車での送迎が必要です。

 

「“子育てに向いている”と思って選んだ場所なのに、私たちには合わなかった」と感じてしまいました。息子の成長とともに、私立中学の受験も検討しだした夫婦は「もう一度、都心に戻ろうか」と話し合いを始めます。

「広さ」と引き換えに失った「時間」と「資産」

都心の物件情報を集めだした2人ですが、都心の中古マンションの価格上昇にしり込みしました。3年前に購入を諦めたマンションも、さらに値上がりしていました。そして2人をもっと驚かせたのは、現在の住まいの売却査定額です。購入時5,000万円だった物件が、わずか2,500万円。

 

「都心のマンションは上がる一方なのに、こんなに差が出るの!?」

 

ローンの残債は約3,700万円です。1,200万円のオーバーローンとなります。

 

2人はますます「あのとき、タワマンを買えていたら……」と嘆きました。こうして、Aさん夫婦は「“広さ”を選んだ代償として、“時間”と“資産”を失うことになった」と後悔したのです。