憧れの都心マンションは、予算的に手が届かない。そこで、「家族のため」「広さのため」と自分に言い聞かせ、郊外の戸建てを選ぶ――。それは、多くの家庭にとって現実的で賢明な代替案でしょう。しかし、その決断が数年後、深刻な後悔に変わるケースも。本記事では、Aさんの事例とともにマイホーム購入時の二大リスクについて、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
港区タワマンのローン審査に落ちました…妥協で東京郊外・始発駅に「広くて庭付き」「子育て向き」の一軒家を購入した年収1,200万円の30代夫婦、3年後に知った「絶望的誤算」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

金利上昇がなくても返済額は増える「125%ルール」

もしAさんがタワーマンションのローン審査に通っていたら、次のようなイメージで返済額がアップします。3パターンでシミュレーションしてみました。

 

〈前提条件〉

2022年秋タワマン購入

借入額:1億2,000万円

当初返済額:31万1,502円

元利均等返済 

ボーナス返済なし 

返済期間35年

変動金利型(金利年0.5%) 5年ルールと、125%ルール(※)を採用

※返済額が急激にアップしないよう、これまでの返済額に対して1.25倍の金額までに抑えるルール

 

試算例1:これまでの金利上昇の実績による計算(今後の金利上昇はなし)

2024年10月~ 年0.75%

2025年4月~   年1.0%

2029年10月~ ローン残高:1億21万5,245円 返済額の見直し 34万2,086円

総返済額:1億4,110万6,894円(支払総利息:2,110万6,894円)

 

返済額の見直しにより、月3万円以上の返済額アップとなっていました。ですが、金利は今後も上昇する可能性があります。それでは、今後も金利が上昇することを想定してシミュレーションしてみましょう。猶予期間中に2%、3%まで金利が上昇する試算例です。

 

試算例2:金利が2%まで上昇した場合

2024年10月~ 年0.75%

2025年4月~   年1.0%

2026年4月~   年1.25%(予想)

2027年4月~   年1.5%(予想)

2028年4月~   年1.75%(予想)

2029年10月~ 年2.0%(予想)

 

ローン残高:1億221万1,965円 返済額の見直し 38万9,377円(125%ルール適用)

2034年10月~ 返済額の見直し 39万9,861円

総返済額:1億5,989万305円(支払総利息:3,989万305円)

 

試算例3:金利が3%まで上昇した場合

2024年10月~ 年0.75%

2025年4月~   年1.0%

2026年4月~   年1.25%(予想)

2027年4月~   年1.75%(予想)

2028年4月~   年2.0%(予想)

2029年10月~ 年3.0%(予想)

 

ローン残高:1億288万2,526円 返済額の見直し 38万9,377円(125%ルール適用)

2034年10月~ 返済額の見直し 47万3,593円

総返済額:1億8,024万353円(支払総利息:6,024万353円)

 

この数字、どう感じましたか? 試算例2と3では、2029年10月の返済額見直しでは125%ルールが適用されてしまいますので、その後の金利上昇がなくても、さらに5年後の2034年10月にも返済額がアップします。

 

仮に、試算例3のように3%まで上昇すると、支払総利息の金額は6,000万円を超え、2034年10月からは毎月47万円を超える返済を完済まで続けなければならない結果となります。Aさんのローン完済予定年齢は74歳。70代までこの返済が続くのは難しかったでしょうね。

 

5年ルールや125%ルールは、返済を先送りする仕組みに過ぎません。そのあいだに金利が上昇すれば、猶予期間終了後の返済額は大幅にアップします。5年間の猶予期間は、5年後の返済アップに備えるために家計の見直しを行う期間です。いまから5年後の返済額をシミュレーションしておく必要があるのです。

 

変動金利型ローンを利用している方は、早めに試算を行い、返済額アップの対策を考えるようにしておきましょう。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表