会社員であれば誰もが憧れるFIRE。自由を手に入れることと、長い人生を支えていくことは、必ずしも同じではありません。想定通りに積み上げた資産であっても、親の介護や予測不能な支出が一気に計画を狂わせることがあります。社会の変化や家族の事情を踏まえた視点が、計画を「本当に持続可能なもの」へと変えていくのです。
こんなはずじゃなかった…〈貯蓄8,000万円〉47歳FIRE達成。悠々自適のはずが…2年後、完璧な人生設計を崩壊させた「1本の電話」 (※写真はイメージです/PIXTA)

貯蓄8,000万円で掴んだ自由のはずが…

「組織の歯車のまま終わりたくない。その一心でした」

 

鈴木拓也さん(49歳・仮名)。拓也さんは2年前の47歳のとき、念願だったFIRE(Financial Independence, Retire Early)を達成しました。新卒で入社したIT企業でがむしゃらに働き、30代で管理職に昇進。高い給与を得る一方で、その生活は心身をすり減らすものでした。鳴りやまない電話、深夜までの残業、休日返上の出勤――そんな日々に疑問を感じた拓也さんは、早期退職を目指し、徹底した支出管理と資産運用に励みます。

 

「飲み会への参加は最低限、昼食は自炊した弁当。給料の半分以上を投資に回していました。周囲からは変わり者だと思われていたでしょう。でも、早くこのストレスから解放されたいという一心でした」

 

会社の持株会や財形貯蓄制度も最大限に活用する一方で、本業のスキルを活かして週末は副業に時間を充て、収入増も図りました。そうして生み出した余剰資金のほとんどを、全世界株式のインデックスファンドや高配当株、そして一部は不動産投資へ。そしてFIREの達成目標としてよく言われる「4%ルール」から算出した、8,000万円の資産額に到達しました。年間配当金や不動産収入などで生活費を十分に賄える見通しが立ったことで、退職を決意しました。

 

会社員時代のストレスから解放された生活は、まさに理想そのものだったのです。時間に追われることなく好きな時間に起き、午前中はジムで汗を流し、午後は趣味のプログラミングや読書に没頭。時には数週間にわたる国内旅行にも出かけました。

 

「もう誰からの指図も受けない。毎日が完全に自分次第。そう実感できる毎日が、本当に幸せでした」

 

FIRE達成後も決して無理はせず、節制を心がけました。拓也さんの人生計画は完璧に思えました。しかし、その悠々自適な生活は、ある日かかってきた1本の電話によって終焉を遂げます。会社を辞めて2年ほど経ったある日のことです。

 

電話は実家で暮らす母・芳子さん(74歳・仮名)の隣人からで、芳子さんが自宅で倒れ、救急搬送されたとのことでした。急いで駆けつけた拓也さん。母は脳梗塞で、一命は取り留めたものの右半身に麻痺が残りました。