長引く物価高騰に直面するなか、私たちの生活を支える賃金の動向に注目が集まっています。厚生労働省が発表した最新の調査結果によると、多くの企業が賃金改定に踏み切っている実態が明らかになりました。しかし、数字上の「昇給」が必ずしも生活のゆとりに直結しているとは限らないのが現実です。ある40代男性のケースから、賃上げの裏側に潜む企業の苦悩と、労働者が直面する家計の厳しさをみていきます。
給与月5,000円アップも絶望…〈月収50万円〉中小企業勤務・45歳男性が嘆く「賃上げ」の虚しさ。厚労省調査で見えた「手取りのリアル」と格差 (※写真はイメージです/PIXTA)

現場の葛藤…賃上げと物価高の追いかけっこ

「5,000円上がったところで、正直、何も変わらないですよ」

 

都内の中堅製造業で働く佐藤大介さん(45歳・仮名)は、給与明細を手にため息をつきます。会社は今年、3年連続となる基本給の引き上げを決定しました。佐藤さんの月収は50万円ほど。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、大卒40代後半の平均給与は月49.8万円であり、ちょうど平均的な水準ですが、佐藤さんの表情は晴れません。

 

「光熱費も食費も、数年前とは比べものにならないほど上がっています。子どもは中学生になり、教育費も膨らむ一方。会社が頑張って昇給させてくれているのは理解していますが、増えた分はすべて物価上昇に飲み込まれ、手元に残る感覚はまったくありません。むしろ、今より給与が低かった数年前のほうが余裕があった気がします」

 

佐藤さんが勤める会社は、従業員数200人強の中小企業です。佐藤さんも会社の苦しい内情を薄々察しています。原材料費の高騰で工場の利益が圧迫されていることは、現場の数字を見れば一目瞭然だからです。

 

「会社が無理をして賃上げをしてくれているのはわかっています。社長が朝礼で『利益を削ってでも皆の生活を守る』と言っていましたが、現場としては複雑です。必死に汗を流して良い製品を作っても、それを上回る勢いで物の値段が上がっていく……。なんだか虚しいんですよね」

 

さらに佐藤さんを悩ませるのは、同じ業界の大手企業との格差です。ニュースで流れる「歴史的な賃上げ」や「満額回答」という景気のよい言葉は、彼にとって別世界の出来事のように映ります。

 

「テレビで『数万円の賃上げ』なんてニュースを見ると、正直落ち込みます。同じように物価高で苦労しているのに、大手と自分たちでは上がり幅が全然違う。このままこの会社にいて、本当に家族を養っていけるのか。ふとした瞬間に、そんな不安が頭をよぎることがあります」