久しぶりの帰省で、親の意外な変化に戸惑った経験はないでしょうか。一方で多くの高齢者が変化を自覚しながらも、対策を拒んでしまうという現実があります。そこには、老いを受け入れがたい心理的な壁や、周囲との意識の乖離が隠されています。ある親子のケースをみていきます。
年末年始の帰省で48歳長男が絶句。実家に響く「テレビの大音量」、何度呼んでも無反応の76歳父…切実な「老い」の光景 (※写真はイメージです/PIXTA)

見た目は元気なのに、言葉だけが届かない

都内で働く佐藤大輔さん(48歳・仮名)は、今年の年始、1年ぶりに鹿児島県にある実家へ帰省しました。仕事の忙しさもあり、普段のコミュニケーションは月に数回のLINEが中心。電話で話す機会が減っていたこともあり、大輔さんは父・正雄さん(76歳・仮名)の変化に気づくのが遅れてしまったといいます。

 

「実家に入った瞬間、近所迷惑じゃないかと心配になるほどテレビの音が大きかったんです。ニュース番組の音声が爆音で流れていて、母に聞くと『お父さんの耳に合わせていたらこうなった』と。足腰もしっかりしていて、畑仕事も欠かさない父ですが、耳恐ろしいほど遠くなっていたんです。初めて親の老いを実感しました」

 

異変は音量だけではありません。食卓を囲んで家族で談笑していても、正雄さんはどこか上の空に見える瞬間があります。たまに口を開いたかと思えば、数分前に終わったはずの話題を持ち出したり、まったく関係のない返答が返ってきたりすることが増えたといいます。

 

「最初は、単に人の話を聞いていないだけかと思ってイラッとしてしまったんです。でも、何度も同じことを説明しているうちに、父が必死に口元を見て、音を拾おうとしていることに気づきました。本人は聞こえていないことを悟られたくないのか、適当に相槌を打って笑って誤魔化していたです。父は頑固な性格で、弱みを見せない人。自分から『耳の聞こえが悪くなっている』とは言えなかったのでしょう」

 

大輔さんは、たまらず「耳が遠くなっているんじゃない? 一度一緒に検査に行こう」と切り出しました。しかし、正雄さんは「うるさい。年なんだから当たり前だ。補聴器なんて年寄り臭いものはつけない」と拒絶。その後、リビングは気まずい沈黙に包まれてしまったといいます。

 

「親を傷つけたいわけじゃないんです。でも、このままじゃ会話がなくなるし……辛抱強く、説得するしかないですね」