長年の住宅ローン返済を終え、ようやく肩の荷が下りる――多くの人が思い描く老後の計画が、思わぬ形で崩れ去るケースがあります。たとえば親から受け継いだ実家などが原因で、ある日突然、固定資産税の急増という形で重くのしかかる……ある高齢夫婦のケースをみていきましょう。
70代夫婦が青ざめた「納税通知書」の恐怖…35年住宅ローン完済も〈固定資産税が突然6倍〉に「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ税金が急増?「特定空家」と固定資産税の仕組み

なぜ、佐藤さん夫妻は、ある日突然、固定資産税が何倍にもなってしまうのでしょうか。その鍵を握るのが、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特別措置法)」です。

 

通常、住宅が建っている土地には「住宅用地の特例」という措置が適用され、固定資産税が大幅に軽減されています。具体的には、200㎡以下の部分(小規模住宅用地)については課税標準が6分の1に、200㎡を超える部分(一般住宅用地)については3分の1に減額されるのです。

 

しかし、適切に管理されずに放置され、周辺の生活環境に悪影響を及ぼすおそれのある「特定空家」に指定されると、この特例の対象から除外されてしまいます。つまり、土地の固定資産税が本来の額に戻り、最大で6倍にまで跳ね上がる可能性があるのです。

 

総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』によると、全国の空き家数は約900万戸と過去最多となりました。空き家率も13.8%と、こちらも過去最高を記録しています。この深刻な社会問題に対応するため、国は「特定空家」の所有者に対して、助言・指導、勧告、命令、そして最終的には行政代執行といった厳しい措置をとれるようにしたのです。「たまに帰って空気の入れ替えをしているから大丈夫」といった自己判断は通用しません。もはや、管理されていない空き家は資産ではなく、大きな負担を生む「負動産」でしかないのです。

 

佐藤さん夫妻のような悲劇を繰り返さないためには、早めに対策を打つことが不可欠です。考えられる選択肢は、大きく分けて3つ。

 

空き家対策① 活用する

自治体が運営する「空き家バンク」に登録し、移住希望者や地域で事業を始めたい人に貸し出したり売却したりする方法です。また、費用はかかりますが、リフォームして賃貸物件や民泊施設として収益化を目指す道もあります。

 

空き家対策② 手放す

一般的な不動産売却を目指すのが第一ですが、買い手がつかない場合は、自治体やNPO法人への寄付を検討するのも一つの手です。また、一定の要件を満たせば、土地の所有権を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」も2023年から始まっています。ただし、審査があり、10年分の土地管理費相当額の負担金が必要になるなどの注意点があります。

 

空き家対策③ 管理する

どうしても手放せない、活用も難しいという場合は、専門の「空き家管理代行サービス」を利用する方法があります。月額数千円から1万円程度で、定期的な見回りや換気、草むしりなどを行ってくれ、特定空家に指定されるリスクを大幅に減らすことができます。

 

どの選択肢を選ぶにせよ、最も重要なのは、問題が大きくなる前に手を打つことです。そして、そのための根本的な解決策は、親が元気なうちに、実家を将来どうするのかを家族全員でしっかりと話し合っておくことに尽きます。相続が発生してからでは、手続きも複雑になり、家族間の意見調整も難しくなりがちです。「まだ先のこと」と問題を先送りにせず、今日からでも家族会議の場を設けることが、未来の悲劇を防ぐ第一歩となるのです。

 

[参考資料]

総務省統計局『令和5年住宅・土地統計調査』

政府広報オンライン『空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!』

国土交通省『空き家対策 特設サイト』