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「これで安心」のはずが…70代夫婦を絶望させた一通の納税通知書
「35年、本当に長かったです。これでやっと肩の荷が下りたなと」
長い年月をかけて払い続けた住宅ローンを完済したという佐藤健一さん(72歳・仮名)。大手企業を定年退職し、退職金と年金で慎ましくも穏やかな日々を送っていました。妻の和子さん(70歳・仮名)と長年夢見た老後が、いよいよ現実のものとなりました。「これからは、二人でゆっくり旅行でも行こうか」。そんな会話を交わした矢先のことでした。一通の納税通知書が、夫婦のささやかな夢を打ち砕くことになります。
「食卓に置いてあった通知書を開いた妻が、驚いた様子で。何事かと思って覗き込むと、そこには昨年の倍近い固定資産税の金額が書かれていました。何かの間違いではないかと、何度も見返しました」
慌てて市役所に問い合わせた健一さんは、耳を疑う言葉を告げられます。税額が急増した原因は、数年前に亡くなった健一さんの母親が暮らしていた、隣県の実家にあるというのです。
健一さんの実家は、最寄り駅から車で30分以上かかる山あいの集落にあります。母親が亡くなってからというもの、東京で暮らす健一さん夫婦が頻繁に管理に戻ることは難しく、いつしか足が遠のいていました。その実家が、倒壊の危険性などがあるとして、行政から「特定空家」に指定されていたのです。
「そんな制度、電話口で初めて聞いて、まったく意味が分かりませんでした。優遇措置がなくなって税金が上がったと説明されても、すぐには飲み込めませんでした」
年金暮らしの夫婦にとって、想定外の税負担は金額以上に重くのしかかります。慌てて実家を売却しようと不動産業者に相談しましたが、「買い手を見つけるのは不可能に近い」と、にべもなく断られました。かといって、家を解体するにも100万円以上の費用がかかり、とても捻出できる金額ではありません。
「ローンが終わって、ようやく楽になれると思ったのに。どうしてこんなことに……」