明日、食べるものに困るほどの事態に陥ったとき、素直に「助けて」と言えるのか……そんなこと言えない、という人は想像以上に多いものです。その根底にあるのは、社会の最後のセーフティネットであるはずの生活保護に対するネガティブなイメージ。ある男性のケースをみていきます。
「生活保護だけは嫌だ!」従業員30人を支えた73歳元社長の残酷な末路…〈年金月7万円〉では暮らせず、役所で嗚咽した日 (※写真はイメージです/PIXTA)

元社長の矜持を砕いた、年金月7万円の現実

「かつて会社の経営者として、従業員の生活を支えていた。そのことに誇りを持っていました。それなのに、まさか自分が、こんなことになるなんて……」

 

佐藤誠さん(73歳・仮名)。10年ほど前まで従業員30人ほどを抱える町工場の社長を務めていた人物です。先代から継いだ会社を堅実に経営し、取引先からの信頼も厚かったといいます。しかし、リーマン・ショックの煽りを受けて経営が悪化し、会社は倒産。佐藤さんは私財を投げ打って従業員の退職金などを工面した結果、手元にはほとんど何も残らず……最近は国民年金とアルバイト代で食いつないでいたといいます。

 

「年金は月7万円程度。家賃と光熱費を払えば、ほとんど残りません。それだけでは生活できないから、交通整理などのアルバイトを続けてきました。この年になって、明日、どう生きていくか考えないといけないなんて、想像もしてなかったですね」

 

物価高のなか、削れるのは食事代くらい。1日1食という日も珍しくないとか。

 

「商店街を歩いていると、昔の知人によく会います。『社長、お元気そうで』なんて声をかけられても、見栄を張って『元気にやっているよ』と答えるしかないですよね。そして、後で自己嫌悪に陥るんです。『あの社長も落ちぶれた』と陰で言われる恐怖から、素直に『生活が大変だ、助けてくれ』なんて、とても言えず……」

 

しかし、プライドを捨てなければいけないときが来ました。病気で2週間ほど入院。なけなしの貯金が底をつきました。また以前のように働くのは難しくなり、八方塞がりに。そして意を決して役所の窓口を訪れたといいます。そこで勧められたのが生活保護でした。

 

「生活保護を受けるのは、どうしても嫌でした。以前、不正受給が問題になったとき『けしからん』と、率先して言っていたこともあり、正直、良いイメージがないんです。しかし、生活保護を勧められて、もうここまで来てしまったんだなとショックで……涙が込み上げてきました。役所の職員さんに、『他に方法はないのか』と泣きついて……困らせてしまいましたね」