注目される「税務行政執行共助条約」ーー国際的租税回避への切り札になるか【国際税務の専門家が解説】

注目される「税務行政執行共助条約」ーー国際的租税回避への切り札になるか【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本は2013年、国際的な税務協力を定めた「税務行政執行共助条約」に正式に加盟しました。これにより、海外での企業活動や資産運用に伴う税務情報の交換や徴収協力が可能となり、国際的な租税回避対策への対応力が大きく高まることになりました。長年の交渉と議論を経て実現した加盟は、日本の税務行政にとって画期的な一歩といえます。

税務行政執行共助条約署名への紆余曲折

税務行政執行共助条約(以下「共助条約」)は、OECDおよび欧州評議会によって検討・作成されました。1986年7月にOECD租税委員会、1987年4月に欧州評議会閣僚会議において条約案が採択され、その後、1987年6月の欧州評議会閣僚会議および1987年10月のOECD理事会において、署名のために条約を開放することが合意されました。1988年1月25日、OECD加盟国および欧州評議会加盟国に対して署名が開放されています。

 

共助条約の主な役割は、①同時税務調査および他国の税務調査への参加を含む情報交換、②保全措置を含む租税債権徴収における協力、③文書の送達、の3点です。

 

日本は、1988年の開放後、国税庁幹部の発言では条約への参加を望む意向を示していましたが、次第にその発言はトーンダウンしました。その理由について大蔵省(当時)から公式な説明はありませんが、アメリカが共助条約の一部に留保していることから、参加しても実効性が限定されると判断した可能性が指摘されます。

 

国会では、社会党の土井たか子氏が共助条約への参加について質問しましたが、官庁側の答弁は要領を得ないものでした。

 

その後、日本はフランスで開催されたG20において、当時のフランス大統領サルコジ氏の提唱に基づき、2011年11月4日に共助条約に署名し、2013年6月28日に受託書をOECDに寄託、同年10月1日に条約は発効しています。

共助条約の背景

税制は各国の主権に基づき執行されますが、企業等の活動が国境を越えて展開する現状では、一国の税務行政だけでは対応が困難です。日本においても、環太平洋税務長官会議(PATA)やアジア税務長官会合(SGATAR)などの国際会議を通じて情報交換は行われてきましたが、世界規模での税務行政執行協力のルールとして、共助条約が策定されました。

 

アメリカは、本条約について、徴収共助および文書送達に関する部分を留保し、情報交換に関する部分のみで参加しています。原条約はその後、議定書により改正され、2010年5月27日に開放されています。

 

また、署名・参加国の多くは、宗主国を通じた適用拡大の形をとっています。たとえば、バミューダ、英領バージン諸島、ケイマン諸島、ジブラルタル、ガーンジー、マン島、ジャージーなどはタックスヘイブンとして知られる地域ですが、イギリスの海外領土または王室領であり、共助条約はイギリスによる適用拡大として実施されています。

 

共助条約が注目される理由の1つは、OECDによる国際的租税回避対策「税源浸食と利益移転(BEPS)」の活動計画において、多国間条約の意義が検討されており、本条約がその先駆的な存在となっている点です。

 

 

矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員

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