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身に覚えのない借金1,000万円…弟に貸した「実印」が招いた悪夢
住宅ローン完済から数ヵ月経ったある日、帰宅した誠さんに、妻の陽子さんが青ざめた顔で一枚の紙を突きつけました。それは裁判所からの封書で、中には「支払督促」と書かれていました。誠さんが、まったく知らない会社の1,000万円もの借金の『連帯保証人』になっている、と。
「何が起きたのか、まったく理解できませんでした」
誠さんは陽子さんに身に覚えがないか尋ねたが、彼女もまったく心当たりがないと怯えるばかり。一体誰が、何のために……。夫婦で顔を見合わせるしかなかった。身に覚えのない借金、夫婦はわらにもすがる思いで、法律の専門家が集まる相談窓口へ駆け込みました。
見知らぬ会社は、実は誠さんの弟が経営する会社であることが判明。そこでやっと5年ほど前に「友人と一緒に会社を立ち上げることになった。手続きで必要だから」と頼まれ、印鑑証明書と実印を数日間、貸したことを思い出したのです。何に使うものなのか、特に気に留めなかったという誠さん。「まさか、あいつが私たちを騙すなんて……」と、その場で崩れ落ちました。
鈴木さんのような「身に覚えのない保証人トラブル」。もし身内が借入れの保証欄に無断で署名・捺印をしたら、支払いを拒むことはできるのでしょうか。
自分の関与していない行為については、原則として、責任を負うことはありませんが、一方で、保証人となることについて承諾した場合には、責任を負うことになります。仮に勝手に印鑑を持ち出すなどして押印している場合は、印鑑の名義人が真意で押印したと推定されてしまうそうです。この場合、印鑑を使用された側は、無断使用であることを立証しなくてはならず、かなり厳しい戦いになります。筆跡鑑定などで偽造を立証できたとしても、「実印と印鑑証明書の管理がずさんだった」として、重い責任を問われるケースも少なくないのです。
安泰の老後が確定したと思っていましたが、まさか身内にこんな仕打ちを受けるとは……。信じた家族に貸した、一本の印鑑。そのあまりに重い代償を、鈴木さん夫婦は今、全身で受け止めています。
[参考資料]
国土交通省『令和6年度 住宅市場動向調査報告書』
法テラス『親が借入の保証人欄に無断で私の署名・捺印をしました。私は、支払いを拒めますか。』