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長年の単身赴任生活…定年後「ようやく家族との時間が」と期待
大手メーカーで管理職を務める鈴木達也さん(55歳・仮名)。月収は65万円と、世間では「勝ち組」と称される収入を得ています。しかし、その表情はどこか晴れません。5年後に迫った定年を心待ちにする一方で、家庭内には暗雲が垂れ込めているといいます。
達也さんのサラリーマン人生は、転勤と単身赴任の連続でした。入社以来、全国の支社を渡り歩き、一人娘の芽実さん(17歳・仮名)が生まれた直後から20年近く、家族と離れて暮らしてきました。
「ずっとがむしゃらでした。会社のために、そして何より家族のためにと身を粉にして働いてきました。娘の入学式も卒業式も、運動会だって一度も参加できたことがありません。妻には本当に苦労をかけっぱなしです」
仙台、福岡、札幌、大阪と、慣れない土地を転々としてきた孤独な生活。毎週末、東京の自宅に帰るわけにもいかず、平日は仕事に没頭し、週末はがらんとしたマンションで一人、テレビを観て過ごすのが常でした。
「社交的な性格なら、その土地ごとに飲み友達でもできたんでしょうけどね」と達也さんは寂しそうに笑います。
心の支えは、たまにかかってくる妻・優子さん(52歳・仮名)からの電話と、定期的に送られてくる娘・芽実さんの写真だけでした。日に日に大人びていく娘の姿に、父親としての喜びと、その成長を間近で見られない寂しさが募ります。
「二重生活は何かと物入りです。それでも、娘を私立の高校に通わせ、不自由ない暮らしをさせてやれているという自負はありました。だからこそ、定年後はこれまでの埋め合わせをしたい。妻と一緒に旅行に行ったり、趣味の釣りを再開したり……そんな穏やかなセカンドライフを夢見ていました」
あと5年。その日を指折り数え、カレンダーに印をつける。定年退職すれば、東京の我が家へ帰ることができる。ようやく家族との穏やかな時間を過ごせる。そう、信じて疑いませんでした。しかし、そのささやかな夢は、妻の一言によって無残にも打ち砕かれようとしていました。