採用トレンドは新型コロナ前後で変化してきましたが、ここ半年ほどは、企業が獲得したい人材を狙って一気に囲い込む「電撃戦」が有利になりつつあるといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏が最新の採用トレンドについて解説します。
採用トレンドは「先手必勝の電撃戦」へ…熱量とスピードで若手人材を奪取、中小企業が大手に勝てる理由【エグゼクティブ転職のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「電撃戦」を展開できる企業が有利になってきた理由

今の若い世代を中心に、ビジョンを明示し「ともに手を携えて頑張りましょう」といった情熱的なメッセージを発信するという、シンプルな動線が時代に合ってきたのだと思います。加えて、若い世代はAIなどを活用し、情報の収集力や分析力に優れているため、自分の進むべき方向性を公には語らなくても、自分なりに明確な軸を持っている人が多いのでしょう。

 

だからこそ、あれこれ理屈を積み重ねて引っ張らなくても、彼らは自分の中で十分に消化できている。むしろ「一緒に頑張りましょう」というトップからのシンプルなメッセージを求めている部分があるのかもしれません。これは一部に限った仮説ではありますが、そういう視点で2025年前半を振り返ると、「電撃戦」を展開できるトップが率いた企業ほど採用成功率が高くなっていたと実感しています。

 

なお、処遇条件については、求職者が同時に複数の企業を検討している場合、どちらかに著しい不備があると厳しくなります。しかし、条件が完全に整っていなくても、互角の条件であれば十分に勝負は可能だと考えています。

 

結論としては、やはり先手必勝の「電撃戦」が有利です。後出しジャンケンは、誰もが知る大手企業やブランドであっても、必ずしも有利にはならなくなってきているのではないでしょうか。

時代の流れで変化する採用トレンド

どの業界でも、トレンドが短いスパンで大きく変わることがあります。たとえば、かつて一世を風靡した在宅勤務は明らかに減少傾向にあり、出社回帰を進める企業が増えてきています。つまり、コロナ禍のトレンドはすでに過去のものとなりつつあるのです。出社して働くのであれば、「何となくこの会社がよい」と思える選択肢も出てくるでしょう。

 

1年前までは、「急に出社しろ」と言われればストレスを感じ、在宅勤務できる会社を必死に探していた人たちも、今では自然と出社するようになっています。在宅勤務はもともと感染症対策として始まりましたが、実際にやってみると意外に快適だと感じる人が多く、「今さら出社などしたくない」という声も増えました。テクノロジーの発達もあり、「在宅でも十分に仕事はできる」という認識が広まったのです。

 

しかし、コロナが収束して企業が社員を呼び戻そうとすると社員は嫌がるため、結局、応じざるを得ない状況も生まれました。先に在宅勤務を廃止した企業から人が流出するケースも見られます。

 

最近では、アマゾンのような世界的大企業でも在宅禁止の動きが進みつつあり、こうした動きが世界的なトレンドとなると、日本でも「右へならえ」が始まるでしょう。こうして企業側の立場が強くなってくると、在宅勤務をしていた若い社員も、知らず知らずのうちに出社を当然のものとして受け入れるようになります。

 

変化のスピードは目まぐるしいものです。だからこそ、採用においても電撃戦のようなスピード感が求められるのかもしれません。

 

幕末から明治維新にかけて活躍した政治家・木戸孝允は、病の床で「時代に選ばれた自分たちは時代に捨てられる」と嘆いたといいます。時流の変化や栄枯盛衰は、今も昔も変わらず共通しているようです。

 

 

 

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長