採用トレンドは新型コロナ前後で変化してきましたが、ここ半年ほどは、企業が獲得したい人材を狙って一気に囲い込む「電撃戦」が有利になりつつあるといいます。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏が最新の採用トレンドについて解説します。
採用トレンドは「先手必勝の電撃戦」へ…熱量とスピードで若手人材を奪取、中小企業が大手に勝てる理由【エグゼクティブ転職のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

人材採用は先手必勝の「電撃戦」へ

この記事で使っている「電撃戦」という言葉、あまりなじみがない方も多いかもしれません。これは第二次世界大戦の際にドイツ軍が用いた戦術の一つです。ミリタリーマニアの方はご存じかもしれませんが、この戦術は次のようなものです。

 

まず最初は航空機で空爆を行い、間髪入れずドイツ軍の誇る機甲集団(砲兵隊や戦車隊など)が進軍し、さらに歩兵部隊が一気に制圧するという、強力かつ迅速な戦法です。この電撃戦では、多くの場合、戦闘が始まるとすぐに勝敗が決まってしまいます。

 

今回は、この電撃戦を採用戦線に重ねて考えてみたいと思います。採用も本質的には「勝負」です。何事も同じだと思いますが、競う相手が互角であれば「先手必勝」が有利です。多くの場合、先に動いたほうがよい人材を獲得できる確率が高まります。

 

一方で、圧倒的なブランド力や資金力を持つ大手企業などは「後出しジャンケン」も可能です。これは、じっくり構えて余裕のある戦いを展開する戦法です。

 

たとえば、スポーツ選手のフリーエージェントでチームが有望選手を獲得するにあたり、先に交渉しているチームが提示した契約金を後から手を挙げた人気も資金力もあるチームが軽々と奪い去ってしまうようなケースと同じ構図です。

新型コロナ前後の採用環境の変化

コロナ禍においては状況が違いました。働き方や価値観が大きく揺れ動き、企業も求職者もお互いに手探りで動けなかったからです。転職希望者は「現職に残るのが正解ではない」とわかっていても、社会の先行きが不透明で一歩を踏み出せず、企業側も自信を失っていました。この時期は「大手の後出しジャンケン」が有利に働いていたのです。

 

しかし、ここ半年ほどで流れは再び変わりました。採用は「電撃戦」が有利になりつつあります。特に経営資源に限りがある中小企業は、大手に真っ向勝負を挑むより、スピードと熱量で勝負するしかありません。経営者が自ら先頭に立ち、短期間に候補者と複数回コンタクトを取り、一気に動機づけを行って囲い込む――そうした動きを取る企業が急激に増えています。

 

もちろん、強引なアプローチは逆効果になることもあります。求職者の軸がまだ固まっていない段階で過度に迫ると、混乱させてしまったり、むしろ逃げられてしまったりする。恋愛と同じで「押せば逃げる」ことがあるのです。

 

そのため「ぜひ他社も検討してください。それでも弊社が印象に残っていたら、ぜひお迎えしたい」という余裕のある姿勢を見せる戦略も有効です。求職者の立場を尊重しつつ、会社の魅力をアピールできるからです。