(※写真はイメージです/PIXTA)
すべてから解放された50歳男性の心残りとは?
「友人たちの話を聞いていると、本当に眩しく思えるんです。20代の頃にバックパックで世界を旅した話とか、30代で夫婦二人、ヨーロッパのワイナリーを巡った話とか。僕たちが子育てと仕事に追われていたそのときに、みんな、人生を謳歌していたんだなと」
もちろん、3人の子どもたちという何物にも代えがたい宝物を授かったことに、後悔はありません。しかし、もし人生をやり直せるなら、自分たちのための時間を持ちたかった――そんな詮無い想いが、ふとした瞬間に頭をよぎるのだとか。
「もう、この年では、さすがに体力も気力もなくて、したいことも思い浮かばないんですよ。だからでしょうか、若い時にやっておけばよかったと、やたらと思ってしまう」
拓也さんのように、50歳で子育てと住宅ローンから解放されるのは、老後を見据えるとかなりのアドバンテージ。
厚生労働省『人口動態調査』によると、2023年、第1子誕生時の父親の平均年齢は33.0歳、第3子は36.0歳。子どもが大学を卒業するのは、50代後半以降というのが一般的です。また国土交通省『住宅市場動向調査』によると、注文住宅(新築)取得時の世帯主の平均年齢は42.1歳、分譲戸建て住宅は38.8歳。そこから30年近くの住宅ローン返済が始まるとなると……今どき年金を受け取る年齢になっても、まだローン返済が続いている、ということも珍しくありません。
「そうですね、周りと比べると、老後に向けての不安は少ないかも。ただ妻とは『ハメを外さないよう気をつけよう』と言っています。経済的には余裕があっても、転落するときはあっという間ですから。身の丈に合わせて暮らしていくことが大切です」
しかし拓也さんの心境に変化が訪れます。
「妻がぽつりと言ったんです。『学生のときに、世界中の美術館を巡りたいね、言っていたよね。今なら叶えられるんじゃない?』と。確かに、この年になったから叶えられる夢もあることに気が付きました」
叶えられなかった過去に思いを馳せるのではなく、これからの人生に光を当てていく。ただそれだけで、それまで抱えていた寂寥感はきれいに消えたといいます。
海外の美術館を巡る旅を計画するようになった鈴木さん夫婦。健康なうちに行けるだけ行こう。年に1回とすると、20回は行ける――そんな計画を立てていると、学生結婚して本当に良かったと思えるといいます。
「ライフイベントがだいぶ早まったことで、随分と得することもあるんですね」
さらに老後を見据えた資産形成も、これから加速させると意気込む鈴木さん夫婦。2人に死角は見当たりません。
[参考資料]
厚生労働省『人口動態調査』
国土交通省『住宅市場動向調査』