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50歳ですべてから解放された男性の告白
都内の中堅企業に勤める鈴木拓也さん(仮名・50歳)は、同世代の友人たちから「圧倒的勝ち組」と称される存在です。無理もありません。50歳にして3人の子どもたちはみな大学を卒業し、35年ローンで組んだ住宅ローンも完済したというのです。
聞けば、妻の由美さん(50歳)とは大学時代からの付き合いで、在学中に由美さんは妊娠。卒業を待たずに籍を入れた、いわゆる学生結婚でした。その後、拓也さんが27歳になるまでに3人の子宝に恵まれました。
「今もそうかもしれませんが、学生結婚は、少し変わった目で見られることもありました。でも、後先を考える余裕なんてなかった。とにかく、家族を養うために必死でした」
拓也さんは大学院に進む予定でしたが、急遽、就職することに。右も左もわからぬまま、がむしゃらに働いたといいます。3人の子どもたちを育てるには、当時住んでいたアパートはあまりにも手狭だったため、思い切って郊外に戸建てを購入したのは、長男が小学校に上がる前のこと。周囲からは無謀だという声も聞こえてきましたが、夫婦には確信があったそうです。
「朝から晩まで馬車馬のように働きました。妻も、いちばん下の子が幼稚園に入ってからはパートに出て。不安はありませんでした。同世代と比べたら覚悟が違う。私たちには3人の子どもがいて、やるしかなかったんです」
35歳で、業界大手への転職が叶い、給与は劇的に増えたといいます。相変わらず仕事は忙しかったそうですが、3人の子どもを大学まで通わせ、住宅ローンを完済する道筋が見えてきました。
「すべて子どもたちのためだった。自分たちのことは二の次、三の次。気がついたら50歳ですよ」
長男、長女、次男の3人は立派に成長し、それぞれ社会人として自立。あれだけ遠いゴールに思えた住宅ローンも、繰り上げ返済を重ねた結果、ついに完済の日を迎えました。現在、月収は60万円ほど。男性・同世代の平均給与を大きく超えます。背負うものがないだけで、誰もが羨望の眼差しを向けます。
しかし、拓也さんの胸には、ぽっかりと穴が空いたような、ある種の寂寥感が渦巻いているといいます。
「子どもたちが独立して、家の中が急に静かになってしまって。ローンの支払いもなくなって、肩の荷が下りたのは確かなんです。でも、ふと我に返ると、心残りも大きくて」