人生の選択肢。「正解」はひとつだけではありません。就職や安定した働き方を肯定する風潮が根強い一方で、常識から外れた生き方を選び続ける人々も。環境が大きく変化するなか、果たして「勝ち負け」とは何なのか?
「正社員になったら負けじゃん」と虚勢を張っていた〈時給880円〉25歳フリーター…20年後の「驚愕の姿」に唖然 (※写真はイメージです/PIXTA)

あんな生き方は真似できないと心がざわついた

「正社員は負け」という田中さんの言葉は、かつては若者の虚勢と片付けられたかもしれません。しかし20年後の田中さんの姿は、それが本気だったことを証明していました。

 

労働政策研究・研修機構の調査によると、60歳で定年退職して退職金をもらったあと、平均的な引退年齢まで非正社員として働き続けた場合の生涯賃金を見ると男性は高校卒で2.7億円、大学卒では3.3億円。また企業規模別にみると、大学卒の場合、男性は従業員10~99人では2.7億円であるのに対し、従業員1,000人以上では3.7億円だといいます。

 

「統計的に言えば、私が歩んできた道が正解だと思います。しかし田中は、その統計をあざ笑うかのように自由で豊かに生きているんです」

 

田中さんは、会社という組織に属することで得られる安定ではなく、自ら資本を運用することで得られる自由を選択し、希少ながらその道を成功させた存在だったのです。

 

別れ際、田中さんはこんな言葉を残したといいます。

 

「拓也も違う生き方を考えてみたら? 会社にしがみついてるだけが人生じゃないと思うよ」

 

その言葉は、かつては笑って聞き流していたはずのフレーズでした。しかしこの日、鈴木さんはかつての旧友の変貌ぶりに驚き、ただ唖然としていました。そして最後のセリフは、胸にずっしりと重く響いたと言います。

 

「もちろん、彼のように成功できる人はほんの一握りだってことは分かっています。でも、仕事に忙殺するばかりで、何をやってきたのか思い出すことさえできない自分の人生が急に色褪せて見えたんです」

 

「正社員になったら負け」。あのとき聞いた若者の一言は、20年の時を経て、まったく異なる重みをもって鈴木さんに返ってきたようです。

 

【統計資料】

総務省統計局『労働力調査』

労働政策研究・研修機構『ユースフル労働統計2024 ―労働統計加工指標集―』