(※写真はイメージです/PIXTA)
早期退職制度という名の甘い誘惑
「まさか、こんなことになるとは思ってもみませんでしたね……」
そう語るのは、早期退職を決断したばかりの田中一郎さん(仮名・55歳)。長年勤めた大手メーカーで順調にキャリアを重ね、役職定年を迎えるまでは管理職として辣腕を振るってきました。
月収は60万円。都内に持ち家もあり、二人の子どもはすでに独立。妻との穏やかな老後を思い描いていた矢先のことでした。ある日、会社から早期退職優遇制度の案内を提示されたのです。
「退職金に1,000万円上乗せ」
この言葉が、田中さんの心を大きく揺さぶりました。
そもそも早期退職制度とは、企業が定年前に退職する従業員に対して、割増退職金の支給や再就職支援などの優遇措置を提供するものです。主に、企業の経営戦略の一環として、人件費削減や年齢構成の適正化を目的に実施されます。早期退職において、通常の退職金に加え、割増退職金が支給されるケースが多く、一般的に給与の数カ月~1.5年分程度が相場といわれています。
東京商工リサーチによると、2024年に「早期・希望退職募集」を行った上場企業は57社。募集人員は1万9人と3倍に急増しました。
田中さんは当時を振り返り、こう語ります。
「1,000万円の上乗せは正直魅力的でした。この先、会社にいても先が見えている。それであれば、早めにセカンドキャリアを考えるのもいいのではないかと前向きに考えました」
会社からは早期退職後のキャリアサポートについても言及されていました。再就職支援サービスの提供や、社内での再雇用制度の案内など、手厚いサポート体制が強調されていたのです。田中さんは、これらの説明を総合的に判断し、「タイミング的にもラッキーだ」と、早期退職することを決断しました。
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半・男性正社員の平均給与は、月収で45.9万円。大卒で企業規模が大企業となると61.2万円です。企業が高給取りのベテラン社員を減らしたいと考えるのは自然な流れかもしれません。