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「正社員は負け」の真意…もう一つの勝ち方
金融系の会社に勤める鈴木拓也さん(仮名・45歳)。20年ぶりにあった、とんでもない大学の同期について話をしてくれました。その同期は仮に田中健太さんとすると、20年前は大学卒業後も定職には就かず、時給880円のアルバイトで生計を立てていたといいます。
「最後にあったのは、25歳くらいのときで、理由は忘れましたが、久々に会おうと、居酒屋に行ったんです。正直、あのときの僕は社会人生活に疲れていました。彼の生き方を無責任と思いつつも、どこか羨ましかったのを覚えています」
2022年、パート・アルバイト及びその希望者のうち、若年層(フリーター)の数は132万人。2003年の217万人をピークに減少傾向にあり、20年前は多くの若者がフリーターを選択した時期といえます。フリーターという生き方は、自由と引き換えに不安定さを抱えるものとされていましたが、田中さんはいわゆる「負け組」というレッテルを、どこか楽しんでいるようにも見えたといいます。
「『自分の人生のハンドルは自分で握りたい』って、彼は何度も言ってました。『正社員なんかになったら負けじゃん』と。虚勢を張っているように見えるけど、妙な説得力があったんです」
とはいえ、鈴木さんはその後、会社員としての道を着実に歩んでいく。互いに連絡を取ることもなくなり、自然と疎遠になっていったといいます。
それから20年。45歳となった鈴木さんは、会社では中間管理職となり部下のマネジメントに追われ、家では教育費の支払いや住宅ローンの返済に追われる日々を過ごしています。そんなある日、都心のカフェで偶然出会ったのが、あの田中健太さんだったのです。
「見た瞬間、わかりました。雰囲気はそのままだったけど、服装や時計からして明らかにそれなりの暮らしをしている感じでした」
久しぶりの再会にも関わらず、田中さんの物言いはあの頃と変わらなかったといいます。
「見ての通り、相変わらずフラフラしてるよ。働くなんて負けだろ?」
平日の昼間に、特に仕事をしている様子もない。だがその余裕ある佇まいは、時給制のアルバイトだけでは説明がつきません。不思議に思っていると、田中さんは少し笑って続けました。
「投資でくっているんだ。やることと言えば、たまにスマホで数字を見ることくらいかな」
なんと彼は、20代のころから始めた投資で資産を築いていたという。最初は「ゲーム感覚」だったものの、経済や企業の動きを学ぶうちに手応えを感じ、次第に本格的な投資家へとシフトしていったといいます。
「ITバブル崩壊後の安値で株を買い始めたって言ってました。聞くと、学生のときから株式投資をしていて、何度も危機を乗り越えながら、今では数億円単位の資産になっているそうです」