「自宅を売って現金化、でも引っ越しは不要」。老後の資金問題を解決する一手として注目されるリースバック。しかし、安易な利用は、むしろ老後を脅かすことになる可能性も……。実情をみていく。
リースバックを選んだばっかりに…「年金月5万円の75歳女性」老後資金1,200万円を確保したはずが、悔恨の念に駆られる理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫の死後、生活苦に…八方塞がりで知った家を守る「唯一の手段」

小山田美恵子さん(仮名/75歳)は、思い出の詰まった我が家を見渡した。3年前に亡くなった夫は、小さな町工場を営む自営業者だった。真面目だけが取り柄のような夫とともに必死で働き、ようやく手に入れたこの家は、なによりの自慢だ。

 

しかし、夫の死後、美恵子さんの生活は一変した。彼女の収入は、国民年金から支給される月5万円のみ。夫が営んでいた町工場は、晩年は決して楽な経営状況ではなく、夫婦の資産は乏しかった。夫の葬儀費用を払い、その後の生活費、そして毎年重くのしかかる固定資産税や家の小さな修繕費を支払っていくうちに、残されたわずかな貯金はあっという間に底がみえはじめる。

 

中小企業で働く一人息子にも、頼ることはできなかった。彼自身、2人の子どもの教育費と住宅ローンの支払いで、自身の家庭を維持するだけで精一杯だった。そこへ近年の記録的な物価高が追い打ちをかけ、家計は常に火の車。「母さん、うちも本当に余裕がなくて……」電話口で申し訳なさそうに繰り返す息子の声が、美恵子さんの助けを求める言葉を飲み込ませるのだった。

 

そんな八方塞がりの状況で、美恵子さんはインターネットで「リースバック」という仕組みを知った。説明には「自宅を売却してまとまった現金化。その後は家賃を払ってそのまま住み続けられる」とあった。

 

「家を売っても、引っ越さなくていい。ご近所付き合いもそのままで、家族の思い出も手放さずに済む……」業者との面談で、担当者は美恵子さんの不安を和らげるように、メリットばかりを並べ立てた。売却によってまとまった現金が手に入ること、固定資産税の支払い義務がなくなること――。足早に注意点についても説明されたが、理解したと思い込み、美恵子さんは契約書に判を押した。