信頼関係には、認識のすり合わせも大切
医療分野におけるテクノロジーは日進月歩で、私たちも積極的に取り入れています。例えば私のクリニックでは患者様の希望を細部まで確認するためにシミュレーションシステムを導入しています。システム自体は十数年前からあったものですが、以前は2D画像だったものが、現在ではさまざまな角度から撮った写真を基に3Dで表示できるようになりました。立体的な映像が映し出されるので、患者様が仕上がりをイメージしやすくなりました。
鼻の整形を例に、より具体的に説明してみます。鼻は顔の中心にあるので、存在感が強い部位になります。そのために、形を少し変えるだけでも印象がかなり変わることがあります。シミュレーションシステムを導入する以前は、「鼻筋を通す」とか「低め」「高め」「標準」など感覚的なやりとりをするしかなく、写真などは参考にするものの、患者様とは非常にアバウトな情報共有しかできませんでした。患者様の希望を聞いてイメージどおりにすることがなかなか難しい部位でもありました。
それがシミュレーションシステムによって患者様ご本人の顔を使い視覚的に理解できるようになり、細かい部分の希望にも応えられるようになったので、やりとりが非常にスムーズになりました。3Dでシミュレーションした鼻を、縦・横・斜め・下からなどいろいろな角度で確認し、患者様が求める仕上がりを医師が細かく認識できるようになりました。
テクノロジーの活用は患者様のご希望をより具体的に把握できるようになっただけでなく、3D技術や精度の高まりにより、治療後に「想像していた鼻と違う」というようなご不満が出るケースもかなり減ってきています。
鼻に関しての希望では、いちばん多いのが鼻筋を通したいというものがあります。鼻先をスッとさせたい、小鼻を小さくしたい、という希望も多いです。それから、最近よく聞く言葉で「忘れ鼻」というものがあります。要するに、鼻にあまり存在感を持たせたくない、印象の強くない鼻にしたいということです。
鼻筋は、私たちは「鼻背(びはい)」と呼んでいますが、ここの手術としてはプロテーゼ(シリコン製の人工軟骨)を入れる方法が一般的です。鼻先に関しては、鼻先をただ単に細くしたい、位置をもっと下げたい、前に出したい、上に出したいなど、人によってさまざまなご希望があり、それによって手術の方法も異なってきます。鼻先には鼻翼軟骨という軟骨があり、これを縫合したり寄せたり、あるいは耳の軟骨を採取してその上に載せたりという手法などから選択することになります。
日本人の場合は正面から押し潰されたような形で非常に柔らかく、あまり高さの出ない鼻もよく見かけます。この場合は鼻柱(びちゅう)、つまり鼻っ柱のところに軟骨を入れて補強したうえで高くするなどの処置が必要になります。鼻筋をもっとスッと下のほうに出したい場合は、鼻中隔延長術といって、ご本人のあばら骨から採取した肋軟骨を使って整える手術が適用されます。
小鼻ももともとの状況によって手術内容は変わります。小鼻だけが外に向かって膨らんでいるのか、鼻自体の幅が広いのか、あるいはその両方なのかで変わってきますが、いずれにしても切開が必要になります。
このように、鼻だけでも複数の治療法があるため、患者様とドクターがシミュレーションで視覚的に認識をすり合わせることはとても大切なステップです。患者様が施術に臨まれる際、「ドクターとしっかり話して確認したから大丈夫」とご不安が軽くなることにもつながっています。シミュレーション含め、手を尽くして患者様のお話をうかがい認識をすり合わせて安心していただくことも、信頼関係の構築につながっていると思います。
鎌倉 達郎
聖心美容クリニック
統括院長
