【第3回】偉大な外科医の「まだ早い」。“直美”を希望する若手医師に伝えたい言葉とは(全10回)

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聖心美容クリニック
【第3回】偉大な外科医の「まだ早い」。“直美”を希望する若手医師に伝えたい言葉とは(全10回)
※(画像はイメージです/PIXTA)

近年、医療界で「直美(ちょくび)」という言葉が注目されています。これは、初期研修を終えた若手医師が、十分な実務経験を積むことなく、美容医療の道に直接進むキャリア選択を指す言葉です。ビジネスとしての魅力や専門性の高さから人気の集まる美容医療ですが、その一方で、技術やモラル面での未熟さがトラブルの一因となることも指摘されています。本稿では、聖心美容クリニック統括院長の鎌倉達郎氏の著書『信頼経営 仕事人として、人として何よりも大切なこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、医師における本質的な学びの重要性について解説します。

辛くとも医療人としての本道を歩み、技術やモラルを学ぶ

私の医療に対する姿勢は、これまでの人生で多くの先輩方から学び、育まれてきました。

 

私には姉が二人いますが、そもそも私が医師を目指したのは、優秀な姉たちに負けたくないという思いがスタートでした。そこから「どういった医師を目指すか?」を自分自身に問いかけていったときに、外科を志したいという気持ちが湧いてきました。手術をしてより多くの病気を治療したいという思いがあったからです。私が子どもの頃は、がんはまだまだ死亡率が高く、治せない病気というイメージが強かったのですが、大学を目指す頃には医療が発達し、手術によってだんだんと治療できるようになってきていました。その医療技術の進化の速さに、興味をかきたてられたのです。

 

外科医に憧れを抱き始めた高校生の頃、姉の夫と話す機会がありました。義兄は当時、九州大学の心臓外科でバリバリ手術をこなしていた医師でした。

 

私は医学部への進学を志していましたが、義兄に「何科に行きたいの?」と尋ねられて「心臓外科」と答えていました。すると彼は、当時の心臓外科の実態を教えてくれたのです。

 

研修医として心臓外科に入っても、本当に手術ができるのは一握りの人間だけで、しかも執刀できるようになるまでに10年以上はかかるし、若い医師は術前・術後管理を担当することが主な業務になる。だから、本当に自分でできるだけ早くに手術をしたいのであれば心臓外科ではなく一般外科に行ったほうがいい、ということでした。

 

義兄のアドバイスに従い、大学を卒業したあとに私は一般外科に進みました。一般外科で行われるのはほとんどがチーム医療であり、私もチームの一員として手術に関わっていました。

 

キャリアを大きく変えた、美容外科との出会い

そのような時期に、H先生という有名な美容外科ドクターの脂肪吸引を見学する機会があり、私は衝撃を受けました。一般医療の世界では、あくまでチームの一員として存在し、しかも年功序列が重んじられます。ところが、美容外科の世界では、ドクターが自分の意志と判断の下に手術をしていました。それはつまり、直接、患者様の希望に寄り添うことができるということです。さらにいうなら、美容外科の施術はドクターの腕や技術の良し悪しが一目で分かるのでごまかしがききません。

 

当時の私にとっては本当に衝撃でした。あのときの驚きが、私を美容外科の道へと向かわせました。

 

H先生のところで衝撃を受けた私は、入局後2年が終わるまでは外科に在籍し、その後に美容外科に進もうと考えていました。そこで毎年冬の時期に行われる教授面談で、3年目以降は美容外科の道に進みたいという意思表示をしたのです。

 

当時の私は九州大学医学部の第二外科に在籍していました。九州大学第二外科という医局は、当時から現在に至るまで日本中に多くの教授を輩出していますが、その中に当時の第二外科の教授である杉町圭蔵先生という偉大な大先輩がおられます。日本の外科領域のみならず医療界においてたいへん著名な方で、第二外科として生体肝移植や国内2例目となるドミノ肝移植を成功に導くなど、杉町先生の業績を数え上げれば枚挙にいとまがありません。

 

私は杉町先生に教えを乞い、薫陶(くんとう)を受けたことを誇りに思っていますが、先生は面談で、私の美容医療への転職に反対されました。「お前はまだ外科医としての鍛錬が足りない。まだ外科にいろ」と言われるのです。杉町先生ほどの方が言われるのだから、その言葉に間違いはないでしょう。私は美容外科への転身をいったん見送りました。

 

面白いことに、その面談から2週間ほど経った頃、件のH先生から「クリニックに空きが出たので、うちに来ませんか」というお誘いを受けたのです。ありがたいお話でしたが、私はそのお誘いをお断りし、第二外科に残って外科での経験を積みました。結果的に6年間を外科医として過ごすことになりますが、あのとき、杉町先生に「まだまだ鍛錬が足りない」と言われなければ、私は迷うことなく美容医療への道を選んでいました。

 

今になって分かることですが、外科医として過ごした6年間は私の技術や研究マインドを高めるだけでなく、医療人としてのあり方やモラル、患者様との接し方等々を学ぶ時間と機会を与えてくれたと思っています。だから、杉町先生のご慧眼には恐れ入るばかりなのです。

 

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※本連載は、鎌倉達郎氏の著書『信頼経営 仕事人として、人として何よりも大切なこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

信頼経営 仕事人として、人として何よりも大切なこと

信頼経営 仕事人として、人として何よりも大切なこと

鎌倉 達郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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