美容医療に誇りを持てるように
私が聖心美容クリニックに移る前、大手の美容クリニックに在籍していたときにたいへんお世話になった先輩ドクターがいます。プライベートでも親しくしていただいたのですが、その先輩から聞いてショックを受けた話があります。
先輩が自宅近くの商店街を歩いているときにTVの街角インタビューをやっていたのだそうです。カメラの前を通りかかった先輩は不意にマイクを向けられて、仕事を聞かれたとのことでした。先輩は「美容外科って言うのが恥ずかしくて、とっさに『会社員です』って言っちゃったんだよ」と述懐するのです。
当時の私は愕然としました。私は念願が叶って一般外科から美容外科に転身し、意気揚々としていたときだったので、自分の職業を隠さなければならないというようなことは考えてもみなかったからです。
しかし、当時は美容医療に偏見を持つ人も少なからずいて、私自身の考えと世間の認識に「大きな隔たりがあるなあ」と感じざるを得ないような場面は何度もありました。初対面の方と楽しくお話ししていても、美容外科医を名乗ったとたんに人が離れたり壁を作られているような感じがしたりしたこともあります。だから、先輩が言われたことも分からないではないのです。
ありがたいことに、時代は大きく変わりました。避けられないまでも、かつては距離を感じる人もいたのに、現在では「美容外科医です」と名乗っただけでポジティブな興味を示されるケースも増えてきました。「このシミは取れるの?」と聞かれたり、「ほかの美容外科に通ったことがあるんだよね」などとフランクに美容医療についての会話が弾んだりする機会も多くなりました。
「偽りの成功例」で自己アピールをする悪辣なドクターたち
このような背景もあり、現代はドクターが自らSNSなどで自己ブランディングする時代になってきています。しかし、こんな時代であるがゆえに若いドクターに危うさを感じることもあります。
ドクターが腕を磨き、自己研鑽に励むことは今も昔も変わらず当たり前に必要なことですが、今は美容外科医をある種のステータスのように考えている層が増え、実力が伴わないのに天狗になってしまうケースを散見するようになりました。つまり、「先生、先生」とおだてられ、自分がすっかり偉くなったような勘違いをして、実力と自己評価にズレが生じる所謂「ダニング=クルーガー効果(自分の能力を正しく認識できず、過大評価してしまう心理現象)」に陥るドクターがいらっしゃるのです。
患者様がドクターを評価する判断基準に技術やキャリアは当然含まれます。患者様が初めて来院されるクリニックであれば特に、ドクターのキャリアを気にされないほうがおかしいくらいです。
そのため、クリニックのHPや個人のSNSに美容外科医としての経歴や実績を掲げているドクターも多く、その際にビフォーアフターの症例写真を掲載することも一般的です。
キャリアをアピールするのは結構なのですが、問題になってくるのは掲載される症例写真です。治療前は化粧をしておらず症状が分かりやすい素顔を掲載して、治療後は化粧をしてきれいな状態での写真を掲載するのは私たちの医業界では明らかにNGな写真の掲載方法なのですが、それを上回る手口が登場しています。
画像編集の技術の恩恵を悪用して、治療前はあえて悪く見えるように写真を加工して、治療後はきれいに見えるようにこれまた画像加工した写真を掲載するのです。事実はもうどこにいってしまったのかという単なる加工画像の症例写真です。
これは私たちが画像加工を見抜いたわけではなく、そのように加工された患者様自らがほかのクリニックを訪れた際に語ってくれたことです。治療結果が良いのであれば、そもそも加工する必要はないのですが、思うような結果が得られないからこのような悪い行動に出てしまうのです。
良い結果が出ないのであれば、美容医療の技術を磨いて良い結果を出すことに意識を持っていくのが普通ですが、画像の加工技術を磨いて良い画像結果を出すという意識を持ってしまうのは、根本的な素養に問題があるようにも思います。人としてのモラル、ドクターとしての矜持(きょうじ)があるのであれば、患者様を騙すようなことは通常ならできないはずなのです。
美容医療業界の恥をさらすようで忍びないのですが、「偽りの成功例」や虚偽のポートフォリオを載せて自己アピールをする悪辣なドクターがいるのが美容医療業界に突き付けられた大きな課題の一つになっています。
