経験不足がトラブルの一因に…「直美」が抱える課題
最近、「直美(ちょくび)」という言葉がメディアでも取り沙汰されています。初期研修が終わって専攻医になる前、あるいは専攻医としての十分な実務経験を積む前に、直に美容医療に進んでしまうので「直美」と呼ばれます。職業に選択の自由があることは確かですが、経験の乏しさから患者様への対応に不備があったり、治療における判断に疑問が生じたり、モラルのない行為をされる場合があり、これが美容医療でのトラブルの一端になることもあるのです。
かつての私も、入局2年を終えたらすぐに美容医療に進む心づもりでいました。ここで少し解説しておくと、医学部卒業後のシステムが当時と現在では異なります。当時は卒業後すぐに医局に入局して、最初から外科医としてのトレーニングが始まります。現在は初期研修として複数の診療科を経験したあと、専攻医研修が始まりますので、当時はいきなり専攻医研修からスタートした形になります。
ですので、あのときH先生のお誘いに応じていたら、専攻医2年後に美容医療に進んでいたことになるため、私は「準直美」のようになっていたと思います。そういった意味でも、私の若さゆえの浅慮をたしなめ、まだ外科にいなさいと引き留めてくださった杉町先生の言葉はありがたいものでした。また、後述しますがこのとき、杉町先生を信頼し、その教えのとおりに修業したことで、後年、新たなライフワーク(再生医療)の扉を開くことにつながりました。
直美を希望される医師の中には、ビジネス的な目的ではなく、純粋に技術面で魅力を感じての方もいらっしゃると思います。私はその気持ちも理解したうえで、医学生や若い医師には、「すぐに美容医療ではなく、まずは大学病院などで基本的なことからある程度の専門的知識や技術を習得して、また医療人としても成長してから美容医療に入るのがよい」と伝えるようにしています。
鎌倉 達郎
聖心美容クリニック
統括院長
